シュクメルリって?変わる限定メニューと牛丼チェーンブランドの戦略
こんにちは。ベトナム在住ライターの寺内です。
みなさんは“ジョージア”という国をご存知ですか?
度々SNSでも話題になっている在日ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏。
そんな大使の愛するジョージアの郷土料理で、松屋の第三回復刻メニュー総選挙で1位を獲得した「シュクメルリ鍋」。
今回は「シュクメルリ鍋」を通して「松屋」について分析したいと思います!
松屋
■ポジショニング分析MAP_牛丼チェーン 満足率×認知率(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチで牛丼チェーンの満足率×認知率を見ると、「すき家」「吉野家」に次ぎ、「松屋」は第3位の位置にいることがわかります。
■ブランドデータ_松屋 認知率/好感率(Knowns 消費者リサーチ調べ)

第3位でありながら、認知率は90%を超えており、好感率も高いことがわかります。
松屋の歴史
1966年、松屋フーズは『中華飯店「松屋」』からその歴史をスタートさせました。
参考:TOP MESSAGE 松屋フーズの未来 | 松屋 Recruiting Site
それ以来、松屋は安くて美味しくて、しかもお腹いっぱいになる食事でお客様によろこんでもらおうという思いを元に、牛めし、とんかつ、寿司、カレー、ラーメンと業態を広げ、現在では牛めしの「松屋」だけでも全国に1,000近くの店舗を構えています。
参考:経営理念 | 企業情報 | 松屋フーズホールディングス
利用者層分析
■デモグラフィック分析_松屋 現在購入層(Knowns 消費者リサーチ調べ)

松屋利用者のデモグラ構成比をみると40代前半〜50代前半と60代後半が多く出ています。
男女比では男性が圧倒的に多いです。
■7 Journey_松屋(Knowns 消費者リサーチ調べ)

「松屋」の7 Journeyを見てみると、認知率が高く、ロイヤル層の顧客も多いことが分かります。
■ファネル分析_松屋(Knowns 消費者リサーチ調べ)

ファネル分析では認知からの購入意向も高く、現在購買⇒リピート意向は97.3%とリピーターがとても多いです。
一方その中でやや好意的ではありますが最近購入していない巻き戻し層も高めです。
どんな人に選ばれる?
■サイコグラフィック分析_松屋 現在利用層・個人価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

■サイコグラフィック分析_松屋 現在利用層・社会価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

■サイコグラフィック分析_松屋 現在利用層・消費価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

松屋現在利用者層のサイコグラフィックを見てみると、“倹約家”に次ぎ“アウトドア派””都会派”な方が多いです。
また社会価値観は“ワーカホリック””出世優先”が同列で、“月曜恐怖症”も多く出ています。
仕事熱心なビジネスパーソンに選ばれているようです。
そして消費価値観は“リターン期待型消費”と“ステータス消費”“イノベーター消費”が高いことから、コスパを重視しつつ、気に入ったものや新しいものをまず試してみたい傾向がありそうです。
ジョージア

ジョージアは、黒海とカスピ海の間、トルコの北東に位置する南コーカサスにある共和制国家です。
(以前日本では「グルジア」と呼ばれていましたが、同国からの要請を受けて2015年4月に「ジョージア」へ変更しています。)
ワイン発祥の地でも有名なジョージアは東にアジア、西にヨーロッパという位置から様々な地方の特性を含んだ料理が多くあり、日本人の口に合うものも多いそうです。
その逆も然り、なことが駐日ジョージア大使のXでも度々伺えます。
100年後、僕らが日本でシュクメルリを食べたことが誰かに思い出されますように。 pic.twitter.com/FY0UwuRRPE
— ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使 (@TeimurazLezhava) February 18, 2021
ちなみに大使は日本育ちのジョージア人です!幼少期から思春期は日本やアメリカで育ち、高校時代に初めて母国ジョージアで暮らしたそうです。
参考:日本育ちのジョージア大使、青春時代に感じた日本で暮らす「違和感」とそれを受け入れるまで / 読売新聞オンライン
郷土料理「シュクメルリ」
参考:第3回復刻メニュー総選挙1位「シュクメルリ鍋定食」発売 | 松屋フーズ
今回松屋が出している料理「シュクメルリ」もそんなジョージアの郷土料理の一つです。
「シュクメルリ」は世界一にんにくを美味しく食べるための料理とも称されており、やわな鶏肉を食欲そそるガーリックの効いたホワイトソースとチーズで煮込んだ料理です。
シュクメルリのメニュー化から見る松屋の強み
松屋世界紀行で話題に
今回復刻総選挙1位になった「シュクメルリ」ですが、松屋ではこれまでも各国の料理を提供しています。
2016年5月に発売した“チキンと茄子のグリーンカレー”を皮切りに、“北欧風シチューハンバーグ定食”や“チーズタッカルビ定食”など、海外料理をメニューに取り入れてきました。
2020年1月には「松屋世界紀行」シリーズとして“シュクメルリ鍋定食”が初登場し、3月にはイタリア料理の“カチャトーラ”、2021年2月にはタイ料理の“マッサマンカレー”といずれも話題となっていました。
参考:牛丼チェーン・松屋が「マイナーな欧州郷土料理」を次々と発売するワケ | 日刊SPA!
「松屋世界紀行」シリーズは、2020年に開催予定だった東京オリンピックがきっかけの1つで、世界の美味しい料理を松屋でたくさんのお客様に食べてもらいたいという発想から商品開発に至ったそうです。
なぜシュクメルリがメニュー化したのか?
当初、松屋は新メニューに“ジョージアの料理を”という考えはなかったそうです。
メニュー開発の過程で「松屋」でよく使っている得意な食材5つ(牛肉、豚肉、鶏肉、チーズ、ニンニク)と、ホワイトソースはじめ各種のオリジナルのソースを生かせる料理を探すなかで、「シュクメルリ」が浮上しました。
さらによく調べると、実際「松屋」の仕組みの中で出来そうな料理で、しかもアレンジして独自性も出せそうということが決め手になったそうです。
松屋のシュクメルリは自社オリジナルのホワイトソースにチーズとニンニクを加え、さらにサツマイモを加えており、日本のごはんに合うように開発されています。
参考:長寿の国のジョージア料理 牛丼の松屋もほれた理由 / 日本経済新聞
そして2019年12月に試験販売を行ったところ、食べたお客さんのSNS投稿で話題となり、さらに当時ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使(現・大使)が「松屋のシュクメルリ」のことを何度かSNS投稿し、話題になりました。
その後「第2回松屋復刻メニュー総選挙」で1位を獲得し、その冬2021年1月に期間限定で復活登場。
そして今回、2023年7月に実施した「第3回松屋復刻メニュー総選挙」にて再度1位を獲得し、2024年2月から再度復活販売されています。
松屋の強みは定食?
■ワードクラウド_松屋 現在利用者層(Knowns 消費者リサーチ調べ)

■商品・サービスへの意見_松屋 現在利用者層(Knowns 消費者リサーチ調べ)

松屋現在利用者のワードクラウドや意見を見ると、牛丼チェーンでありながら牛丼意外のメニューに関する文字やコメントが多いことがわかります。
特に今回復活した「シュクメルリ」もそうですが、丼ものに止まらない多彩な定食メニューが利用者層に受けているようです。
また公式のニュースリリースやSNSを見ると、2週間に1度新商品をリリースと新メニュー開発のスピードが速く、定番メニューも定期的に改良を行うなど利用者を飽きさせない工夫がされていることがわかります。
そして以前分析した他の人気牛丼チェーンと比べると、シンプルなメニュー構成の「吉野家」、丼ものの選択肢が多い「すき家」に対し「松屋」は人気のある定食メニューを手ごろな値段で提供している点で、他牛丼チェーンとの差別化に成功しているのかもしれません。
また全ての料理に味噌汁がついてくるのも「松屋」の特徴で、こちらもワードクラウドやコメントにも多く出ており、シュクメルリ鍋定食にも味噌汁がついてきます。
丼ものや和定食、洋風定食にも味噌汁がついていることで、口休めになり、さらに食事が楽しめるのだと思います。
今回「シュクメルリ」のヒットを現在購入者のサイコグラから考察すると、”アウトドア派””都会派””イノベーター消費”の方が多く、海外の料理にも柔軟な人たちに受け入れやすかったこと、高いイメージのある洋食が手軽に食べらる、新しいものが好きでチャレンジしたい人へのワクワク感の提供がポイントだったのではないでしょうか。
まとめ
「松屋」利用者の特徴
・40代前半〜50代前半と60代後半、男性が多い
・倹約家・アウトドア派・都会派
・仕事熱心なビジネスパーソンに利用されている
・リターン期待型消費・ステータス消費・イノベーター消費の傾向
今回松屋の復刻メニュー「シュクメルリ」からの分析で、松屋は丼ものだけでなく、定食や消費開発のスピードが強みであり消費者価値観のコスパを重視しつつ、気に入ったものや新しいものをまず試してみたい傾向にも合っていることがわかりました。
そしてこの松屋の「シュクメルリ」ですが、なんと公式がクックパッドに再現レシピを公開しているのです!
参考:松屋公式!お家で『松屋のシュクメルリ』by松屋公式 / cookpad
■デモグラフィック分析_クックパッド 現在利用層(Knowns 消費者リサーチ調べ)

■デモグラフィック分析_松屋 巻き戻し層(Knowns 消費者リサーチ調べ)

どうして話題になっている商品のレシピを公開しているのか考えてみたのですが、Knowns 消費者リサーチでクックパッド現在利用者のデモグラを見てみると女性の40代が多く、「松屋」の巻き戻し×女性でみると40代が一番多く出ており、クックパッド利用者層に一致します。
話題の商品のレシピを出すことで、普段松屋を利用しない層へのアプローチにもなり、実際に作ってみてこの味で合っているのか答え合わせに来店したくなりそうですよね。
■サイコグラフィック分析_松屋 巻き戻し層・個人価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

■サイコグラフィック分析_松屋 巻き戻し層・消費価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

また松屋は新メニューのスピード開発だけでなく、コロナ禍や物価上昇の影響を加味し、午前11時~午後5時にランチメニューを販売しています。
通常より30~80円安い提供で、野菜とみそ汁がついたバランスの良い食事が600円以下と、巻き戻し層のサイコグラで多く出ている“健康志向”と“コスパ消費”にも合った取り組みであると感じました。
主食・主菜・副菜をそろえ、タンパク質や野菜をしっかりとれるメニューは巻き戻し層に多い女性にも嬉しいメニューではないでしょうか。
参考:松屋が「30~80円引き」のランチを夕方まで提供できる理由 / ITMediaビジネス
クックパッドでのレシピ公開もそうですが、このように現在利用層以外にも響きそうな取り組みをやっている松屋。
今後どんな商品が出てくるのか利用層が変わってくるのか楽しみですね!