「元気になる」よりも「気分が上がる」—— レッドブルのブランド戦略
リード
こんな悩みを抱えていませんか。
- ブランドイメージ調査を実施しても、認知や好感度の数値が購買につながっている実感がない
- 競合と機能面で差がつかない中、どう差別化すべきか分からない
- ブランディング施策の成果を、経営層にデータで説明できず苦労している
- 従来のマス広告に頼らない、新しいブランド構築の方法を知りたい
本記事では、エナジードリンク市場におけるレッドブルのブランド戦略を、消費者調査データと実際の施策事例から分析します。「製造も流通も外部委託し、マーケティングだけに集中する」という独自のビジネスモデルで成功したレッドブルから、自社のブランド戦略を再設計するヒントを得てみましょう。
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レッドブルが選んだ道:「飲料メーカー」ではなく「メディア企業」
調査概要
- 調査期間: 2025年9月1日〜12月31日実施
- 有効回答数:ブランドイメージ・購買行動分析 n=477、カスタマージャーニーマップ n=1,015
エナジードリンク市場は成熟し、味・価格・機能性での差別化は困難です。そんな中、レッドブルは極めてユニークな戦略を取っています。
実は、レッドブルは商品の製造も流通も他社に委託しています。飲料メーカーでありながら、自社の主業務は「ブランド・マーケティング」だけ。コカ・コーラやペプシコーラのような伝統的な飲料メーカーとは、根本的にビジネスモデルが異なるのです。
創業者のディートリッヒ・マテシッツは、1987年の創業時から「商品の告知」ではなく「ブランドの確立」を意識していました。その結果、レッドブルは世界で60億本以上(2016年時点)という販売実績を持つ企業に成長しました。
消費者調査データを見ると、レッドブルは単なる飲料ブランドではなく、「行動を後押しする存在」として認識されています。特に象徴的なのが「期待感・ワクワク」というブランドイメージです。このイメージは、味や成分といった機能を超えた心理的価値であり、購買行動に直結しています。
新カテゴリー「エナジードリンク」の創出:疲労回復ではなくパフォーマンス向上
レッドブルの最大の戦略は、既存のカテゴリーに当てはめるのではなく、新しいカテゴリーを創出したことです。
従来の「栄養ドリンク」は、疲れを癒やすために飲むものでした。しかしマテシッツは、まったく異なる定義でエナジードリンクを位置づけます。
- スポーツでのパフォーマンスを高めるために飲む
- クラブで踊るときにテンションを上げるために飲む
- 「ここぞ」という時に気分を上げるために飲む
この定義の転換が、レッドブルの成功の起点です。「疲れたから飲む」のではなく、「これから頑張るために飲む」。この心理的価値が、消費者調査データにも表れています。
レッドブルに対するブランドイメージ上位3項目(n=477)
| ブランドイメージ | 回答者数 | 割合 |
|---|---|---|
| 利便性 | 229 | 51.7% |
| 親近感 | 213 | 49.0% |
| 期待感・ワクワク | 213 | 47.0% |
ブランドイメージ調査では、「期待感・ワクワク」というイメージを持つ人が47%に達しました。他の上位イメージ「利便性」「親近感」は比較的汎用的ですが、「期待感・ワクワク」はエナジードリンクというカテゴリーにおいて極めて独自性の高い価値です。
マス広告を捨てた理由:クラブとSNSから始まった口コミ戦略
レッドブルは、テレビCMや雑誌広告といったマス広告よりも、口コミとコミュニティを重視したプロモーションを展開しました。
初期プロモーションは、クラブやバーでのキャンペーンでした。ダンサーやミュージシャン、DJを発掘するコンテストを開催し、出演者や参加者がパフォーマンスの前にエナジードリンクを飲み、その感想をSNSで発信。これにより、レッドブルは「イケてる飲み物」として若者の間に広まりました。
サンプリングにも工夫があります。街中で巨大なレッドブルの缶を荷台に乗せた宣伝カーを見たことはないでしょうか。女性スタッフがサンプル缶を渡す際、「プルトップを開けましょうか」と声をかけ、レッドブルのモチーフが飾られている指輪を使って開けてくれます。それを見た人は思わず「その指輪は?」と質問したくなり、自然に会話が始まります。
従来のマス広告は「企業から消費者への一方的な情報伝達」ですが、レッドブルは「消費者同士が語り合う体験」を作りました。これは、ブランドが消費者の記憶に残りやすくなるだけでなく、コミュニティ内での信頼性も高まります。
エクストリームスポーツで「先駆者」イメージを確立
レッドブルのもう1つの戦略が、エクストリームスポーツへの徹底的な投資です。
レッドブルは1988年、トレイルラン、パラグライダー、カヤック、マウンテンバイクの4種目を組み合わせたドロミテマンへのスポンサー契約を手始めに展開。現在は以下のような独自の大会を主催しています。
- エアレース(空のF1と呼ばれる飛行機レース)
- クリフダイビング(28mの断崖から海に飛び込む)
- レッドブル・レーシング(F1チーム)
重要なのは、レッドブルが単なるスポンサーではなく、主催者や選手のバックアップをする協力者という存在であることです。メジャーではないエクストリームスポーツを、レッドブルが広報を務めることで世間に広め、才能のある若手を世界的なアスリートへ育成するプログラムを運営しています。
これにより、レッドブルには「先駆者」「挑戦者」というイメージが定着しました。
メジャーなスポーツのスポンサーになることは、認知度向上には効果的です。しかしレッドブルは、マイナーなスポーツを「一緒に育てる」ことで、「パイオニア」というブランドイメージを確立しました。これは、商品の機能訴求では絶対に作れない価値です。
データが証明する「期待感・ワクワク」の力
これらのブランド戦略が、実際に購買行動にどう影響しているのか。消費者データから確認してみましょう。
「期待感・ワクワク」イメージを持つ層の購買行動(n=477)
| 指標 | 回答者数 | 割合 |
|---|---|---|
| 全体(このイメージを持つ人) | 220 | 47.0% |
| 購入意向 | 190 | 88.6% |
| 現在購入 | 119 | 53.9% |
| リピート意向 | 115 | 52.6% |
| 過去購入 | 67 | 29.5% |
| 離反予備軍 | 4 | 1.4% |
「期待感・ワクワク」イメージを持つ層では、購入意向が88.6%、現在購入が53.9%、リピート意向が52.6%と、すべての段階で高水準を維持しています。
カスタマージャーニー分析では、最も多いセグメントが「きっかけ待ち」の35%でした。これは、レッドブルが日常的な飲料ではなく、特定のシーンや状態で想起される飲料として位置づけられていることを示しています。
レッドブルのカスタマージャーニーマップ(n=1,015)
| セグメント | 回答者数 | 割合 |
|---|---|---|
| 未認知 | 60 | 6.4% |
| きっかけ待ち | 332 | 35.0% |
| チャンス | 105 | 11.4% |
| 離反 | 86 | 8.3% |
| 巻き戻し | 168 | 15.0% |
| 離反予備軍 | 10 | 0.8% |
| 消極ロイヤル | 147 | 13.9% |
| 積極ロイヤル | 107 | 9.2% |
「きっかけ待ち層が35%」という数値は、ブランドが嫌われているのではなく、「使うべきタイミングを待っている」状態です。レッドブルの成長戦略は、CEP(カテゴリーエントリーポイント)を増やし、「どんな時にレッドブルを思い出すか」というトリガーを拡張することにあります。また、巻き戻し層(過去購入があり再購入意向がある層)においても26.6%が「期待感・ワクワク」イメージを保持しており、ブランドが長期的な記憶資産として機能していることが分かります。
「期待感・ワクワク」イメージ×カスタマージャーニー(n=477)
| セグメント | 回答者数 | 割合 |
|---|---|---|
| きっかけ待ち | 17 | 7.2% |
| チャンス | 17 | 9.4% |
| 離反 | 9 | 2..9% |
| 巻き戻し | 58 | 28.6% |
| 離反予備軍 | 4 | 1.4% |
| 消極ロイヤル | 58 | 30.5% |
| 積極ロイヤル | 57 | 22.0% |
興味深いのは、消費者の自由記述で「できれば飲まずに過ごしたい」「値段が高すぎる」といった慎重な意見を持つ人も、購買やリピートをしている点です。レッドブルが機能評価ではなく、「ここぞという時」という心理的トリガーで選ばれていることの証拠といえます。
レッドブルのブランド戦略から得られる5つの示唆
1. 新カテゴリーを創出し、ゲームのルールを変える
- レッドブルは「栄養ドリンク」という既存カテゴリーで競争するのではなく、「エナジードリンク」という新カテゴリーを創出しました。「疲労回復」ではなく「パフォーマンス向上」という新しい価値定義で、競争環境そのものを変えたのです。
機能での差別化が難しい市場では、「商品が何をするか」ではなく「消費者をどんな状態にするか」を価値として定義することが重要です。
2. マス広告よりもコミュニティ体験を作る
- レッドブルは、テレビCMで「商品の告知」をするよりも、クラブやエクストリームスポーツのコミュニティの中で「体験」を作り、それが自然に広がる仕組みを作りました。
3. 「先駆者」として、未開拓の領域に投資する
- メジャーなスポーツのスポンサーになるのではなく、マイナーなエクストリームスポーツを「一緒に育てる」ことで、「挑戦者」「パイオニア」というブランドイメージを確立しました。
4. 製造・流通を外部化し、マーケティングに集中する
- レッドブルは飲料メーカーでありながら、製造も流通も外部委託し、自社の資源を「ブランド・マーケティング」だけに集中させました。
5. 心理的トリガーで選ばれるブランドを目指す
- データが示すように、レッドブルは「健康的」「安い」とは必ずしも評価されていません。それでも「ここぞという時」という心理的トリガーで選ばれています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 新カテゴリーを創出するのは、大企業にしかできないのでは?
必ずしもそうではありません。レッドブルも1987年創業の新参者でした。重要なのは、「既存カテゴリーの定義を少しずらす」ことです。例えば、栄養ドリンクを「疲労回復」から「パフォーマンス向上」に定義を変えるだけで、新しい市場が生まれます。
Q2. マス広告を捨てて、口コミだけで本当に成長できますか?
レッドブルも完全にマス広告を捨てたわけではありません。重要なのは、広告予算の配分を「告知」から「体験」にシフトすることです。まずは、広告予算の一部を「消費者が語りたくなる体験」に振り向けてみてはいかがでしょうか。
Q3. ブランド戦略の成果を経営層にどう説明すればいいですか?
ブランドイメージと購買行動の相関をデータで示すことが有効です。レッドブルの事例では、「期待感・ワクワク」イメージを持つ層の購入意向が88.6%と、明確な相関が確認できています。
まとめ:レッドブルが教える「ブランド戦略の本質」
レッドブルが成功した理由は、新カテゴリーの創出、製造・流通の外部化、マス広告よりも体験、先駆者イメージの確立、そして心理的トリガーでの選択です。
レッドブルは、エナジードリンクという商品を売っているのではありません。「挑戦する人を後押しする体験」を一貫して提供してきたブランドです。
ブランド戦略を「なんとなく良いイメージを作る」ではなく、「データで行動を設計し、体験で記憶に残す」レベルまで引き上げること。これが、これからのマーケティングには求められています。
レッドブルの事例が示すのは、「自社のコア・コンピタンスは何か」を明確に定義し、そこに資源を集中させることの重要性です。限られた資源の中で勝つためには、「何をやらないか」を決めることが、「何をやるか」を決めることと同じくらい重要なのです。
まずは、自社のブランドイメージと購買行動の関係を可視化することから始めてみてください。
既存データは検索するだけでいつでも見放題。オリジナルデータのアンケート設計・配信も
1分で終わる消費者調査 Knowns 消費者リサーチ

「期待感・ワクワク」は機能価値ではなく心理価値です。レッドブルは「何ができるか」ではなく「どんな気分にさせるか」を価値として確立しました。新カテゴリーの創出とは、単に言葉を変えることではなく、消費者の心理状態を再定義することなのです。