ブランドスイッチはなぜ起きるのか?──携帯キャリア1,627人調査が示す「好かれているのに選ばれない」構造
リード
- 認知度も好感度も悪くないはずなのに、顧客が静かに離れていく
- 「価格が原因」と説明してみたものの、どこか腑に落ちない
- ブランドロイヤルティの低下を肌で感じているが、何を改善すべきか分からない
- 競合に明確な差別化ポイントがないのに、なぜか顧客を持っていかれる
- 「不満がない」はずの顧客がいつの間にか乗り換えている
このような悩みに、心当たりはないでしょうか。
本記事では、携帯キャリア大手3社(docomo・au・SoftBank)の消費者調査データ(n=1,627)をもとに、ブランドスイッチが起きる本質的なメカニズムを解説します。
結論からお伝えすると、ブランドスイッチは「不満が溜まった瞬間」ではなく、
「このブランドを使い続ける理由が思い出せなくなった瞬間」に起きています。記事を読み終えるころには、以下のことが得られます。
- ブランドイメージとファネル構造の関係を、データで理解できる
- 自社ブランドの継続利用を高めるための具体的な示唆が得られる
- 他業界にも応用できる、再現性のあるブランド分析の考え方が身につく
携帯キャリアという身近な事例を通じて、ブランド乗り換えの理由を構造的に紐解いていきましょう。
このような「感情 × ファネル」の分析を、自社ブランドや検討中のブランドで確認したい方は、
ノウンズ消費者リサーチの資料をご覧ください。
そもそもブランドスイッチとは?
ブランドスイッチとは、不満が原因で起きる現象ではなく、ブランドイメージが継続利用という行動まで接続されなくなったときに起きる行動変化である。
マーケティングの教科書では、価格・品質・サービスへの不満が主な原因とされています。しかし実務の現場では、「不満があったわけでもないのに、気づいたら乗り換えていた」という声を耳にすることが少なくありません。
ここに、ブランドスイッチの本質が隠れています。
顧客は「嫌いになったから離れる」のではなく、「好きな理由を忘れたから離れる」のです。
この違いを理解しているかどうかで、打つべき施策はまったく変わります。
たとえば、解約率が上がったとき、多くの企業は「何が不満だったのか」を調査しようとします。もちろん不満を特定することは重要です。しかし、顧客が自分でも気づいていない「選び続ける理由の希薄化」には、この方法ではアプローチできません。
調査概要:大手3キャリアのブランドイメージとファネルを比較
本記事のデータは、2025年9月から12月に実施した消費者調査に基づいています。
- 調査期間:2025年9月1日〜12月31日
- 調査対象:SoftBank(n=514)、au(n=578)、docomo(n=535)
- 調査手法:ノウンズ消費者リサーチ
- 調査内容:50項目のブランドイメージ指標とファネル各段階の行動意向
- 「企業ブランドとしてのキャリア」に焦点を当てて分析
- 50項目のブランドイメージ指標とファネル各段階の紐づけを実施
この調査では、「認知→好意→購入意向→現在利用→リピート意向」というファネル構造と、各ブランドが持つイメージの関係性を可視化しました。
3社に共通する「ファネル断絶」の構造
調査の結果、3社すべてに共通する顕著な傾向が見つかりました。
それは、認知・好意・期待といった上流ファネルは比較的高いにもかかわらず、購入意向・現在利用・リピート意向という下流に進むにつれて数値が大きく落ち込むという現象です。

たとえば「信頼・信用」というブランドイメージで見てみましょう。
| ブランド | イメージ保有率 | 購入意向 | リピート意向 |
|---|---|---|---|
| docomo | 61.8% | 81.8% | 42.3% |
| au | 58.4% | 72.4% | 30.6% |
| SoftBank | 53.7% | 76.6% | 32.7% |
「信頼できる」と感じている人のうち、約8割が購入を検討しますが、リピート意向まで到達するのは3〜4割程度にとどまります。
これは「嫌われてはいないが、選ばれ続けてもいない」状態を示しています。
言い換えれば、好意的なブランドイメージを持っていたとしても、その感情がファネル下流まで落ちていなければ、ブランドスイッチは静かに発生するのです。
重要なのは、その好意が継続利用という行動まで接続しているかという視点です。
docomoの特徴とスイッチ要因:「信頼されているのに選び直されない」ジレンマ
docomoの強みは、圧倒的な「信頼性」と「品質」のイメージです。
調査データを見ると、以下のイメージ項目で高いスコアを記録しています。
- 信頼・信用:61.8%
- ベーシック・定番的:61.3%
- 安心・安全:59.3%
- 高品質:55.4%
- 誠実・まじめ:53.6%
- 伝統・歴史:53.2%
これらの数値は3社の中でもトップクラスです。購入意向も相対的に高く、「検討候補には入る」ブランドであることが分かります。
しかし、リピート意向になると伸び悩みます。
たとえば「高品質」イメージを持つ人のうち、購入意向は82.3%と高いのですが、リピート意向は41.6%まで下がります。この約40ポイントのギャップが、docomoのブランドスイッチリスクを示しています。
なぜこのような現象が起きるのでしょうか。
原因は、感情的な再選択理由の弱さにあります。
「期待感・ワクワク」(45.8%)、「挑戦・チャレンジ」(44.1%)といった感情的なイメージは、「信頼」「安心」に比べると控えめです。これらの項目も購入意向までは高く転換するものの、リピート意向への接続が弱い傾向があります。
つまり、docomoユーザーの多くは「信頼できるから使っている」「昔から使っているから」という惰性的な理由で継続している可能性があるのです。
この状態は一見安定しているように見えますが、実はリスクをはらんでいます。料金改定や競合の新サービス、あるいはライフステージの変化をきっかけに「そういえば、なぜdocomoを使っていたんだっけ?」と立ち止まった瞬間、ブランドスイッチが起きやすくなるからです。
- 強み:信頼・品質・歴史という「安心できる理由」がある
- 課題:感情的な「選び直す理由」が薄い
- リスク:惰性利用が多く、きっかけ次第で離脱しやすい
auの特徴とスイッチ要因:「無難すぎて印象に残らない」落とし穴
auは、3社の中で最もバランスの取れたイメージを持つブランドです。
主要なイメージ項目は以下のとおりです。
- 利便性:63.1%
- ベーシック・定番的:59.0%
- 信頼・信用:58.4%
- 安心・安全:57.7%
- 高品質:51.4%
数値だけを見ると、決して悪くありません。むしろ「親しみやすく、無難で、安定している」という好意的な印象を持たれているといえるでしょう。
しかしここに、auならではの課題があります。
各ファネル段階の数値を見ると、auは3社の中でもっともリピート意向への転換率が低いのです。
たとえば「信頼・信用」イメージを持つ人のリピート意向は30.6%。docomoの42.3%、SoftBankの32.7%と比較しても明らかに低い水準です。
これは「第一想起」と「指名理由」の弱さを反映しています。
携帯キャリアを選ぶとき、多くの人はまず「自分にとって一番良さそうなブランド」を思い浮かべます。そこでdocomoの「信頼・歴史」やSoftBankの「先進性・話題性」が想起される一方、auは「特徴がない」がゆえに想起されにくい。
結果として、比較検討のフェーズで他ブランドに流れてしまうのです。
auのブランドスイッチは、積極的な不満ではなく、「選び続ける積極的な理由がない」ことによって引き起こされています。
「悪くないけど、特別選ぶ理由も見出しにくい」
この評価は、ロイヤルティにとって最も危険な状態といえるでしょう。
- 強み:バランスが良く、万人受けするイメージ
- 課題:第一想起されにくく、指名理由が弱い
- リスク:比較検討時に「特に選ぶ理由がない」と判断される
SoftBankの特徴とスイッチ要因:「好き嫌いが分かれる」感情先行型ブランドの宿命
SoftBankは、3社の中で最も「尖った」ブランドイメージを持っています。
特徴的な項目を見てみましょう。
- 挑戦・チャレンジ:46.3%
- 先進的・テクノロジー感:45.1%
- 熱意・信念:45.1%
- 期待感・ワクワク:44.4%
- 話題・流行り:36.9%
これらの数値は、docomoやauにはない「感情を動かす力」を示しています。「ワクワクする」「新しいことをやってくれそう」という期待感は、SoftBankならではの強みです。
しかし一方で、ファネル全体の絶対値は3社中もっとも低くなっています。
たとえば「安心・安全」イメージを持つ人の割合は52.5%で、docomo(59.3%)やau(57.7%)を下回ります。「信頼・信用」も53.7%と、他社より控えめです。
これは、SoftBankが「合う人には刺さるが、合わない人には響かない」タイプのブランドであることを意味しています。
感情先行型ブランドの特徴として、評価の振れ幅が大きいことが挙げられます。SoftBankを好意的に見ている層は熱狂的なファンになりやすい一方、フィットしない層は早期に離脱する傾向があります。
興味深いのは、SoftBankの離反予備軍(過去利用者で再購入意向が低い層)の割合がほぼゼロに近い点です。これは「離れる人は早い段階で離れ、残る人はしっかり残る」という二極化を示唆しています。
- 強み:感情を動かす「ワクワク感」「先進性」がある
- 課題:信頼・安心の評価が相対的に低い
- リスク:ブランド人格とのミスマッチで早期離脱が起きやすい
ブランドスイッチが起きる3つの本質的な理由
ここまでの分析を踏まえ、ブランドスイッチが起きる本質的な理由を3つに整理します。

たとえば「この会社は信頼できる」と思っていても、「だから私は使い続ける」という感情まで到達していなければ、何かのきっかけで簡単に乗り換えが起きます。
ブランドイメージと行動を接続する「感情的な橋渡し」が必要なのです。
料金プランの改定、競合の魅力的なキャンペーン、ライフステージの変化──これらのきっかけで「惰性の鎖」が切れた瞬間、ブランドスイッチは容易に起こります。
「過去」を理由にした継続ではなく、「未来」を理由にした継続が必要です。
一方、生活者のライフスタイルや価値観は時間とともに変化します。かつてはフィットしていたブランド人格が、今の自分には合わなくなっている──これもブランド乗り換えの理由となります。
重要なのは、ブランド人格を変えることではなく、「どんな人にフィットするか」を明確にし、その人との関係性を深めることです。
このような「感情 × ファネル」の分析を、自社ブランドや検討中のブランドで確認したい方は、
ノウンズ消費者リサーチの資料をご覧ください。
ブランドロイヤルティを高める4つのステップ
では、ブランドスイッチを防ぎ、継続利用を高めるにはどうすればよいのでしょうか。以下の4つのステップで考えてみましょう。
認知から好意は転換しているか。好意から購入意向はどうか。購入意向からリピート意向はどうか。
それぞれのステップで離脱率を計測し、最も落差の大きいポイントを特定します。
特定の顧客層だけが離脱しているケースでは、打ち手が大きく変わります。
「安心できる」「信頼できる」といった機能的なベネフィットだけでなく、「自分らしくいられる」「誇らしい気持ちになれる」といった感情レベルのベネフィットを明確にします。
これが「行動を正当化する感情」の源泉になります。
具体的には、長期利用者向けの特別なベネフィット、今後のサービスビジョンの共有、顧客との共創プログラムなどが有効です。
むしろ、ズレが大きい層には適切なサブブランドやプランを案内し、本ブランドとの関係を維持しながらも最適な選択肢を提示するほうが、長期的な関係構築につながります。
よくある失敗パターンと対策
ブランドスイッチ対策において、陥りやすい失敗パターンがあります。あらかじめ把握しておくことで、同じ轍を踏まずに済みます。
他業界への応用:この構造は携帯キャリアに限らない
本記事で分析したファネル断絶の構造は、携帯キャリアに限った話ではありません。

以下のような業界でも、同様の現象が起きています。
| 業界 | 惰性で継続している状態 | スイッチが起きるきっかけ |
|---|---|---|
| 保険業界 | 契約時は比較検討するが、更新時は惰性で継続している。 | 保険料の値上げや競合の魅力的なプランをきっかけに、 「そういえば、なぜこの保険を選んだんだっけ?」と考え始める。 |
| 金融業界 | 給与振込口座として使い続けているが、その銀行を積極的に選んでいるわけではない。 | ネット銀行の利便性を知った瞬間に、スイッチが起きる。 |
| サブスクリプションサービス | 無料トライアルから有料に移行したものの、利用頻度が下がっている。 | 「なくても困らないかも」と感じ始め、解約を検討する。 |
| BtoB SaaS | 導入時は課題解決のために選んだが、社内での活用が定着していない。 | 契約更新時に「本当に必要か?」と見直される。 |
これらに共通するのは、「不満があるわけではないが、使い続ける積極的な理由もない」という状態です。
成熟市場においては、明確な不満がなくてもブランドスイッチは起きます。その背景には、ブランドと生活者(または企業とユーザー)の関係性の希薄化があるのです。
導入時の課題意識が風化していないか、定期的に確認することをおすすめします。
よくある質問(Q&A)
Q1. ファネル断絶の分析は、どのようなデータがあれば実施できますか?
A. 最低限必要なのは、「ブランドイメージ調査」と「ファネル各段階の行動データ」の紐づけです。自社で顧客調査を実施するか、外部の調査パネルを活用する方法があります。重要なのは、同一回答者に対してイメージと行動の両方を聴取することです。
Q2. 小規模なブランドでも、この分析フレームワークは使えますか?
A. はい、使えます。サンプル数は少なくなりますが、定性的なインタビューと組み合わせることで、ファネル断絶のポイントを特定できます。むしろ小規模なブランドのほうが、顧客との直接対話がしやすく、深いインサイトを得やすい面もあります。
Q3. ブランドロイヤルティの低下は、どのような指標で早期に察知できますか?
A. NPS(推奨意向)の低下、リピート購入率の低下、競合ブランドへの関心度の上昇、問い合わせ内容の変化(ポジティブな問い合わせからネガティブな問い合わせへのシフト)などが代表的な指標です。ただし、これらは「結果指標」であり、先行指標としては「ブランドとの接点頻度」「エンゲージメント率」の変化に注目することをおすすめします。
Q4. 惰性で継続している顧客を、どうすれば能動的なファンに変えられますか?
A. 一足飛びにファンにすることは難しいですが、まずは「改めて選んでもらう機会」を作ることが有効です。契約更新時のパーソナライズドな提案、長期利用者限定のコミュニティイベント、新サービスの先行体験などを通じて、「惰性」を「意識的な選択」に転換するきっかけを提供しましょう。
Q5. ブランド人格のミスマッチは、どうやって見極めればよいですか?
A. 顧客セグメント別に「ブランドに対する期待」と「実際の体験」のギャップを調査します。期待と体験のギャップが大きいセグメントは、ミスマッチの可能性が高いです。また、離反した顧客へのインタビューで「何が合わなかったか」を聞くことも有効です。ただし、注意点として、「合わなかった」という声に過剰反応してブランド人格を変えてしまうと、既存のファンを失うリスクがあります。
まとめ:ブランドスイッチを防ぐために
本記事のポイントを振り返ります。
- ブランドスイッチは、不満ではなく「選び続ける理由の忘却」によって起きる
- ファネル断絶の構造を理解することで、真の離脱リスクが見えてくる
- ブランドイメージの高さと、継続利用への転換は別の問題である
- 惰性利用は安定に見えて脆弱。「未来志向の継続理由」を構築することが重要
- この構造は携帯キャリアに限らず、多くの成熟市場に共通する
ブランドロイヤルティの低下を感じている方は、まず自社のファネル構造を可視化することから始めてみてください。どこで断絶が起きているかを特定できれば、打つべき施策が見えてきます。
ブランドスイッチは、顧客が去る瞬間に起きるのではありません。顧客が「このブランドを使い続ける理由」を思い出せなくなった瞬間に、すでに始まっているのです。
ノウンズ消費者リサーチでは、ブランドイメージ(感情・認知・評価)と、購入意向・継続利用意向・乗り換え意向を一体的に可視化することが可能です。
さらに、業界・競合との比較を通じて、自社ブランドがどこで選ばれなくなっているのかを客観的に把握できます。
これにより、「好かれているのに選ばれない理由」や「ブランドロイヤルティが低下し始めている兆候」を、感覚ではなくデータで捉えられます。自社ブランドでも同様の分析を行い、継続利用につながる“本当の理由”を見つけたい方は、ぜひノウンズ消費者リサーチの資料をご覧ください。
このような「感情 × ファネル」の分析を、自社ブランドや検討中のブランドで確認したい方は、
ノウンズ消費者リサーチの資料をご覧ください。

むしろ「特に理由はないけど、なんとなく」という声こそ、最も警戒すべきシグナルです。こうした曖昧な違和感の積み重ねが、気づかぬうちに選ばれなくなる要因となっていきます。