ブランドエクイティとは何か?なぜG-SHOCKは”違和感”を出しても炎上しないのか
はじめに
「この新商品、ブランドイメージと合わないのでは?」
「挑戦的すぎて、炎上リスクが怖い」
「社内で”らしくない”という声が上がっている」
こうした悩みを抱えていらっしゃる方は、決して少なくありません。
新商品の開発、ブランドの刷新、挑戦的なキャンペーン。 どんな企業にも「攻めるべきタイミング」はやってきます。
しかし、その一歩を踏み出せない。踏み出すべきかどうかの判断基準がわからない。結果として、無難な選択を繰り返し、ブランドが徐々に陳腐化していく。
そんな状況に陥っている企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、そうした悩みを抱えるマーケティング担当者、ブランド責任者、新規事業開発者の皆さまに向けて、
「ブランドエクイティ」という概念を、意思決定の武器として使えるレベルまで解像度を上げてお伝えしていきます。題材として取り上げるのは、カシオのG-SHOCKです。
2024年、G-SHOCKは「指輪サイズのG-SHOCK」という、一見すると”らしくない”プロダクトを発表しました。頑丈さ、タフネスを売りにしてきたブランドが、なぜ指輪なのか。SNSでは一瞬、違和感を指摘する声も上がりました。
しかし、炎上はしませんでした。むしろ「G-SHOCKらしい進化」として受け入れられたのです。
なぜでしょうか。その答えは、G-SHOCKが長年かけて築いてきた「ブランドエクイティの厚み」にあります。
本記事では、ノウンズ消費者リサーチデータを用いながら、ブランドエクイティとは何か、なぜ「測れる」のか、そしてあなたの会社が「どこまで挑戦していいのか」をどう判断すればよいかを、具体的にお伝えしていきます。
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ブランドエクイティとは何か?
ブランドエクイティ(Brand Equity)とは、一般的には「ブランドが持つ資産価値」と説明されます。
しかし、この定義は実務で使うには抽象的すぎるのではないでしょうか。 「資産価値が高い」と言われても、だから何をすればいいのか、何を判断できるのかがわかりにくいですよね。
そこで、本記事ではブランドエクイティを次のように捉え直しています。
ブランドエクイティとは、「そのブランドが挑戦を許される幅」である。
つまり、顧客がそのブランドの”らしくない行動”をどこまで受け入れてくれるか。 その許容範囲こそが、ブランドエクイティの本質だと考えています。
なぜ「挑戦可能枠」という視点が大切なのでしょうか
ブランドエクイティを「挑戦可能枠」として捉えると、以下のような意思決定ができるようになります。
- 新商品の受容度を事前に予測できる
- 炎上リスクの有無を構造的に判断できる
- “らしさ”を守るべきか、壊すべきかを言語化できる
従来のブランド論では、「ブランドイメージを守る」ことが正義とされてきました。 しかし、守り続けるだけでは市場は飽きてしまいます。変化しない企業は、やがて「古い」と見なされてしまうリスクもあります。
大切なのは、「守る」と「攻める」のバランスではなく、「どこまで攻めていいか」を知ることです。
その判断基準を与えてくれるのが、ブランドエクイティという概念なのです。

なぜ今、ブランドエクイティが再注目されているのでしょうか
まず、SNS時代における「炎上と進化の分岐点」を理解しておくことが重要です。
かつて、ブランドの評価は「認知度」で測られていました。 どれだけ多くの人に知られているか。CMを何回打ったか。メディア露出がどれだけあったか。
しかし、現代においては、「知られている」だけでは十分ではありません。 むしろ、知名度が高いブランドほど、一つの失策で炎上するリスクが高まっているのが現状です。
では、同じように挑戦的な施策を打っても、炎上するブランドとしないブランドの違いは何でしょうか。
その答えが、ブランドエクイティの「厚み」にあります。
厚みがあるブランドは、違和感を「進化」として解釈してもらえます。 厚みがないブランドは、同じ行動が「迷走」「裏切り」として批判されてしまいます。
ブランドエクイティを構成する4つの要素を押さえておきましょう
アーカー(David Aaker)の理論では、ブランドエクイティは以下の4要素で構成されるとされています。
この4要素は、下から上に向かって積み上がる構造になっています。
認知がなければ連想は生まれません。連想がなければ品質評価は生まれません。品質評価がなければロイヤルティは生まれません。
そして、ロイヤルティまで到達しているブランドだけが、「挑戦可能枠」を持てるのです。
認知だけでは、ブランドの挑戦は許されにくいのが実情です。
購入・リピートといった行動までイメージが接続しているかどうかが、
挑戦が受け入れられるかを分ける大きな分岐点になります。
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G-SHOCK事例:なぜ「指輪サイズ」は炎上しなかったのか
違和感のあるプロダクトが生まれた背景
G-SHOCKといえば、「落としても壊れない」「水に濡れても大丈夫」というタフネスのイメージが強いブランドです。
そのG-SHOCKが2024年に発表したのが、「指輪サイズのG-SHOCK」でした。 従来の大きく無骨なデザインとは真逆の、小さく繊細なフォルム。
一見すると、G-SHOCKの”らしさ”を否定するようなプロダクトに見えます。
SNS上では当然、「これはG-SHOCKなのか?」「方向性を見失ったのでは?」という声も上がりました。
しかし、その声は炎上には至りませんでした。 むしろ数日後には、「G-SHOCKらしい挑戦」「新しい解釈で面白い」というポジティブな評価が主流になっていったのです。
炎上しなかった理由を構造的に考える
なぜ、この”違和感”は受け入れられたのでしょうか。
その理由は、G-SHOCKが長年かけて築いてきたブランドエクイティにあると考えられます。
G-SHOCKのブランドエクイティは、単なる「タフネス」という機能的イメージだけではありません。 その根底には、「常に新しいことに挑戦するブランド」「期待を裏切らない進化を続けるブランド」という情緒的イメージが積み重なっています。
つまり、顧客は「G-SHOCKなら、何か面白いことをやってくれるはず」という期待感を持っているのです。 この期待感が、違和感を「裏切り」ではなく「進化」として解釈させる装置になっていると言えます。
最新データで読み解く:G-SHOCKのブランドエクイティ構造
ここからは、Knownsが実施した消費者調査データを用いて、G-SHOCKのブランドエクイティを具体的な数値で確認していきましょう。
- 調査期間:2025年10月1日〜12月31日
- サンプル数:n=380
- 調査元:ノウンズ消費者リサーチ
本調査では、G-SHOCKに対する「期待感・ワクワク」というイメージ項目を、購買ファネルの各段階(認知層、購入意向層、過去購入層、リピート意向層)ごとに計測しています。

<データから分かること>
本当に重要なのは、そのイメージが行動(購入)と接続しているかどうか。
G-SHOCKの場合、「期待感」というイメージが購入意向を強力に後押ししていることが、データから明確に見えてきます。
リピート意向層のスコアが低く見える場合でも、
それは必ずしもブランドの問題ではなく、商材特性による構造的な要因であるケースが少なくありません。
ここを誤解すると、誤った戦略判断につながりかねません。
イメージ × ファネルという分析フレームワークの活用
なぜ「イメージ調査」だけでは不十分なのでしょうか
多くの企業がブランドイメージ調査を実施されています。 しかし、その結果を見て「〇〇のイメージが高い」「△△の認知度が上がった」と報告するだけで終わっていないでしょうか。
イメージは、それ単体では意思決定に使いにくいのです。
なぜなら、「イメージが高い」ことと「そのイメージが購買につながっている」ことは、まったく別の話だからです。
認知層では80%の人が「高品質」と答えていても、購入意向層では30%しか選んでいなければ、そのイメージは購買を後押ししていません。むしろ、何か別の要因で購入が阻害されている可能性すらあります。
イメージ × ファネルの交差分析を試してみましょう
そこでおすすめしたいのが、イメージ項目をファネル(購買段階)ごとに分解して見るという手法です。
具体的には、以下のような問いを立ててみてください。
- 認知層と購入意向層で、イメージスコアはどう変化するか?
- 購入前と購入後で、イメージは維持されるか、低下するか?
- リピート層は、どのイメージを特に強く持っているか?
この分析によって、どのイメージが「行動を後押しするエクイティ」として機能しているかが可視化されます。

G-SHOCKの場合:「期待感」が行動接続イメージになっています
先ほどのデータをもう一度見てみましょう。
G-SHOCKの「期待感・ワクワク」は、認知層から購入意向層にかけて35%以上上昇しています。 これは、期待感というイメージが購買意欲と強く連動していることを示しています。
さらに、過去購入層でも6割以上を維持しています。 これは、購入体験が期待を裏切らず、「次も期待できる」という信頼が積み重なっていることを意味しています。
この構造こそが、G-SHOCKの「挑戦可能枠」を支えているのです。
「挑戦可能枠」という概念
挑戦可能枠の広さを決める3つの条件を確認しておきましょう
ここまでの議論を整理すると、ブランドの「挑戦可能枠」は以下の3条件で決まると言えます。
- ・認知だけでなく、購入意向・過去購入まで一貫してイメージが高いかどうか
- ・「安心」「信頼」だけでは挑戦は許されにくい傾向があります
- ・「次は何をやってくれるのか」という期待がエクイティの源泉になります
- ・購入前の期待が、購入後の体験で裏切られていないかどうか
- ・この一貫性が、次の挑戦を許す土台になります
G-SHOCKは、この3条件をすべて満たしています。 だからこそ、「指輪サイズ」という一見”らしくない”プロダクトを出しても、炎上ではなく「進化」として受け入れられたのです。
自社の挑戦可能枠を診断するには
では、あなたの会社のブランドは、どの程度の「挑戦可能枠」を持っているでしょうか。
以下の質問でセルフチェックしてみてください。
- 自社ブランドのイメージ調査を、ファネル別に実施しているか?
- 購入意向層で、認知層よりもスコアが上がるイメージ項目があるか?
- 購入後も維持される「行動接続イメージ」を特定できているか?
- 顧客は自社ブランドに「期待」「ワクワク」を感じているか?
これらの問いに明確に答えられない場合、現状では「挑戦可能枠」を判断する根拠がないということになります。
感覚や経験則で「うちのブランドなら大丈夫」と判断するのは、実はリスクが高いのです。 なぜなら、その感覚が正しいかどうかを検証する手段がないからです。
ブランドエクイティ測定の実務ステップ
ステップ①:イメージ項目の設計から始めましょう
まず、自社ブランドに対して顧客が持っているイメージを網羅的に洗い出します。
ポイントは、機能的イメージと情緒的イメージの両方を含めることです。
このセグメント設計により、同じイメージ項目でも段階ごとにスコアがどう変化するかを追跡できるようになります。
ステップ③:行動接続イメージを特定しましょう
データを収集したら、認知層から購入意向層にかけてスコアが上昇するイメージ項目を探してみてください。
これが「行動接続イメージ」であり、購買を後押しするエクイティとして機能している項目です。
逆に、認知層では高いのに購入意向層で下がるイメージは、購買を阻害する要因になっている可能性がありますので、注意が必要です。
ステップ④:挑戦可能枠を判断してみましょう
行動接続イメージを特定したら、以下の基準で「挑戦可能枠」を判断してみてください。
よくある失敗パターンと対策
Q&A:ブランドエクイティに関するよくあるご質問
Q1. ブランドエクイティは中小企業でも測定できますか?
A. はい、測定できます。
ブランドエクイティの測定に必要なのは、大規模な調査ではなく、適切な設計の調査です。サンプル数は数百程度でも、ファネル別のセグメント設計がしっかりしていれば、十分な示唆を得ることができます。
むしろ中小企業のほうが、経営判断にダイレクトに活かしやすいという利点もありますので、ぜひ取り組んでみていただければと思います。
Q2. イメージ調査は定期的に行うべきでしょうか?
A. 理想は年1〜2回の定点観測です。
ブランドエクイティは短期間で大きく変動するものではありませんが、市場環境の変化や競合の動きによって、相対的な位置づけは変わり得ます。
特に、大きな施策(新商品発売、ブランドリニューアルなど)の前後では、変化を追跡することをおすすめします。
Q3. 挑戦可能枠が狭い場合、どうすればよいでしょうか?
A. まずは「期待」系のイメージを育てることから始めてみてください。
具体的には、以下のような施策が考えられます。
- 小さな挑戦を積み重ねて成功体験を蓄積する
- 「次に何をやるか」を顧客に予告し、期待感を醸成する
- 挑戦の意図や背景を丁寧にコミュニケーションする
いきなり大きな挑戦をするのではなく、挑戦可能枠を徐々に広げていくというアプローチが現実的です。
うか?
Q4. 競合ブランドのエクイティも測定すべきでしょうか?
A. 可能であれば、ぜひ実施してみてください。
自社だけの数値を見ていても、それが「高い」のか「低い」のか判断しにくいですよね。競合との比較によって、自社の相対的な強み・弱みが明確になります。
また、競合が持っている「行動接続イメージ」を分析することで、市場で勝つために必要なエクイティの方向性も見えてきます。
Q5. ブランドロイヤルティとブランドエクイティの違いは何でしょうか?
A. ロイヤルティはエクイティを構成する一要素です。
ブランドエクイティは、認知、連想、品質評価、ロイヤルティの4要素で構成されます。ロイヤルティはその最上層に位置し、エクイティの「結果」として現れる指標と言えます。
ただし、ロイヤルティが高いからといって、必ずしも挑戦可能枠が広いわけではありません。ロイヤルティの「質」(何に対してロイヤルなのか)を見る必要がありますので、この点も意識してみてください。
データで測れること、測れないこと
ここまで、ブランドエクイティをデータで測定し、意思決定に活用する方法をお伝えしてきました。
しかし、正直に申し上げると、データで測れないこともあります。

データは判断の精度を上げるものであり、判断を代替するものではありません。
最終的な意思決定は、データを踏まえたうえで、経営者・担当者の皆さまが行う必要があります。
まとめ
本記事では、ブランドエクイティを「挑戦可能枠」として再定義し、G-SHOCKの事例と最新データを用いてその構造を解説してきました。
本記事でご紹介した「イメージ × ファネル分析」やブランドエクイティの考え方は、ノウンズ消費者リサーチを活用することで、実際の意思決定に落とし込むことが可能です。
ノウンズ消費者リサーチでは、
・ブランド連想が認知・購入意向・購入・リピートまで、どこで強く/弱くなっているかを可視化
・「期待感」「信頼」「違和感」などのイメージが、購買行動にどう影響しているかを定量的に把握
・新商品や挑戦的施策に対して、どの方向なら“進化”として受け止められやすいかを事前に検証
といった分析が可能です。
感覚や経験則に頼らず、「このブランドは、ここまでなら挑戦していい」をデータで判断したい方は、ぜひ一度ご相談ください!
既存データは検索するだけでいつでも見放題。オリジナルデータのアンケート設計・配信も
1分で終わる消費者調査 Knowns 消費者リサーチ

実務で本当に重要なのは「それを何に使えるのか」という視点ではないでしょうか。
ブランドエクイティは、守るための概念ではなく、挑戦のために“使える枠”として捉えていただくと、意思決定の場面でぐっと扱いやすくなります。