ストーリーテリングマーケティング|想いで差別化する実践法


「また価格を下げるしかないのか」。そんな悩みを抱えているマーケターの方は少なくありません。

競合他社と機能を比較されるたびに、価格競争に巻き込まれていく。自社製品への想いや開発背景を伝えたいのに、スペック表の数字だけで判断されてしまう。こうした状況に、多くのメーカーが直面しています。

しかし、価格や機能以外の価値で選ばれているブランドも確かに存在します。その違いは何でしょうか。答えの一つが「ストーリーテリングマーケティング」です。

ストーリーテリングマーケティングとは、商品の機能や価格ではなく、ブランドの想いや背景を物語として伝える手法です。消費者の感情に働きかけることで、記憶に残り、共感を生み出します。

この記事では、価格競争から抜け出したいと考えているメーカーのマーケターやブランド担当者に向けて、ストーリーテリングマーケティングの実践法をご紹介します。


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なぜ機能や価格では差別化できないのか

コモディティ化と機能訴求の限界

現代の市場では、多くの商品が似たような機能を持つようになる傾向があります。これを「コモディティ化」と呼びます。

例えば、家電製品を思い浮かべてみてください。冷蔵庫も洗濯機も、基本的な機能はどのメーカーも備えています。省エネ性能も、静音性も、デザインも、各社が競い合った結果、カテゴリーや価格帯によって異なるものの大きな差がなくなってきました。

こうなると、消費者が比較するのは価格だけになります。機能が同じなら、安い方を選ぶのは当然の判断です。

さらに、機能訴求には別の問題もあります。それは「記憶に残りにくい」ということです。スペック表に並ぶ数字は、理性には訴えかけますが、感情には響きにくいこともあるのではないでしょうか。

価格競争に巻き込まれないためには、機能以外の価値を伝える必要があります。

その価値とは、ブランドの想いや背景、つまり「ストーリー」です。

ストーリーテリングマーケティングとは

定義・機能訴求との違い・「想い」を伝える価値

ストーリーテリングマーケティングとは、商品やサービスの価値を物語として伝えるマーケティング手法です。単に機能を説明するのではなく、なぜその商品が生まれたのか、どんな想いが込められているのかを語ります。

従来の機能訴求との違いを、具体例で見てみましょう。

  • 機能訴求の場合:

「このスニーカーは軽量で、クッション性に優れ、通気性も抜群です」

  • ストーリーテリングの場合:

「このスニーカーは、足の痛みに悩むランナーの声から生まれました。開発チームは2年間、何百人ものランナーと対話を重ね、一人ひとりの走りを観察しました。その結果、軽さだけでなく、足への優しさを追求したデザインにたどり着いたのです」

どちらが心に残るでしょうか。後者の方が、商品への愛着が湧くのではないでしょうか。

ストーリーテリングマーケティングが伝えるのは「想い」です。なぜこの商品を作ったのか。誰のために、どんな課題を解決したいのか。そこには必ず、人の想いがあります。

この想いこそが、価格や機能では表現できない価値なのです。消費者は商品を買うのではなく、その背景にある想いや価値観に共感して選んでいます。

ストーリーテリングマーケティングがもたらす3つの効果

記憶に残り、価格以外の価値で選ばれる

ストーリーテリングマーケティングの最大の効果は、消費者の記憶に深く刻まれることです。

人間の脳は、物語を処理する際に複数の領域が活性化すると言われています。言語を理解する部分だけでなく、感情を司る部分、経験を記憶する部分も同時に働くのです。だから物語は記憶に残りやすいのです。

記憶に残れば、購買を検討するタイミングで思い出してもらえます。「あのブランドの話、良かったな」と。これが、価格以外の価値で選ばれる第一歩です。

さらに、ストーリーは価格比較を無意味にします。なぜなら、想いや背景は比較できないからです。A社の創業ストーリーとB社の開発秘話を、どちらが優れているかと比べることはできません。

例えば、Appleのスティーブ・ジョブズが初代iPodを発表した際、「1,000曲をポケットに」という一言で表現しました。容量が何GBかではなく、それが生活にもたらす変化を物語として伝えたのです。

価格以外の価値で選ばれるブランドは、消費者との感情的なつながりを持っています。

そのつながりを生み出すのが、ストーリーなのです。

消費者がブランドの語り部になる

ストーリーテリングマーケティングのもう一つの効果は、消費者自身がブランドを語り始めることです。

良いストーリーは、人に話したくなります。「このブランド、実はこんな背景があってね」と、友人や家族に伝えたくなるのです。これは、広告費をかけずに口コミが広がることを意味します。

SNS時代において、この効果は特に大きくなっています。共感したストーリーは、シェアされ拡散される傾向があり、企業が発信するメッセージよりも、友人からのおすすめの方が信頼されるという調査結果もあります。

実際、Patagoniaというアウトドアブランドは、環境保護への想いを一貫して語り続けています。この姿勢に共感した消費者たちが、ブランドの語り部となり、Patagoniaのファンを増やし続けているのです。

消費者がブランドの語り部になるとき、マーケティングは新しい段階に入ります。企業が一方的に発信するのではなく、消費者と共にブランドを育てていく関係が生まれるのです。

効果的なストーリーテリングの3つの型(フレームワーク)

ストーリーには、効果的な「型」があります。ここでは、ビジネスで活用しやすい3つのフレームワークをご紹介します。

チャレンジプロット:挑戦者の想いを語る

チャレンジプロットとは、困難に立ち向かう挑戦者の物語です。業界の常識に挑む、大きな壁を乗り越える、そんなストーリーが該当します。

このプロットは、応援したくなる心理を引き出します。人は、弱者が強者に立ち向かう姿に共感するものです。

例えば、地方の小さな醤油メーカーが、大手メーカーが支配する市場に挑戦する。添加物を一切使わない製法にこだわり、時間をかけて丁寧に作る。最初は誰にも見向きもされなかったが、その想いに共感した料理人が使い始め、徐々に評判が広がっていく。

チャレンジプロットを使う際のポイントは、挑戦の理由を明確にすることです。なぜその挑戦をするのか。そこに想いがあれば、消費者は応援してくれます。

クリエイティビティプロット:革新への想いを語る

クリエイティビティプロットとは、新しい価値を創造する物語です。既存の常識を覆す発明や、誰も思いつかなかった解決策を生み出すストーリーです。

このプロットは、驚きと憧れを生み出します。「そんな発想があったのか」という気づきが、ブランドへの興味を高めます。

スティーブ・ジョブズのiPod発表は、まさにこのプロットでした。ジョブズは「音楽を持ち歩く体験」を再定義したのです。技術的な革新だけでなく、音楽との関わり方そのものを変える提案でした。

クリエイティビティプロットを使う際は、革新の背景にある想いを語ることが重要です。なぜその革新が必要だと考えたのか。誰のために、どんな未来を実現したいのか。そこに共感が生まれます。

コネクションプロット:社会との繋がりを語る

コネクションプロットとは、人と人、人と社会のつながりを描く物語です。社会課題の解決や、コミュニティの形成を軸にしたストーリーです。

このプロットは、共感と参加意識を生み出します。「自分もその一部になりたい」と思わせる力があります。

例えば、サントリーの「天然水の森」プロジェクトは、水源を守る活動を通じて、自然との共生を語っています。商品を買うことが、森を守ることにつながる。こうしたストーリーは、消費者に「良いことをしている」という実感を与えます。

SDGsやサステナビリティが重視される現代において、コネクションプロットの重要性は増しています。企業が社会とどう関わるのか。その姿勢を物語として伝えることで、ブランドの価値が高まるのです。

【実践編】ストーリーテリングマーケティングの5ステップ

ここからは、実際にストーリーテリングマーケティングを実践するための具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:想いの言語化

最初のステップは、ブランドの想いを言葉にすることです。これが最も重要で、最も難しい作業かもしれません。

まず、以下の質問に答えてみてください。なぜこの商品を作ったのか。誰のために作ったのか。どんな課題を解決したいのか。創業時の想いは何だったのか。

これらの答えの中に、ストーリーの種があります。完璧な文章にする必要はありません。まずは、思いつくままに書き出してみることが大切です。

社内の関係者にインタビューするのも効果的です。創業者、開発担当者、営業担当者。それぞれが持っている想いやエピソードを集めましょう。

ステップ2:共感ポイントの発見

次に、消費者が共感できるポイントを見つけます。どんなに素晴らしい想いでも、消費者に響かなければ意味がありません。

ターゲット消費者を具体的にイメージしてください。その人は、どんな悩みを抱えているのか。何を大切にしているのか。どんな価値観を持っているのか。

そして、自社の想いと消費者の価値観が重なる部分を探します。そこが共感ポイントです。

例えば、子育て中の親をターゲットにした商品なら、「子どもの安全を第一に考えた」という想いは強く響くでしょう。環境意識の高い消費者なら、「持続可能な素材にこだわった」という背景に共感するはずです。

ステップ3:物語への変換

想いと共感ポイントが明確になったら、それを物語に変換します。ここで、先ほど紹介した3つのフレームワークを活用します。

物語には、基本的な構造があります。主人公がいて、課題に直面し、それを乗り越えていく。この流れを意識すると、ストーリーが作りやすくなります。

主人公は、創業者でも開発者でも、消費者自身でも構いません。重要なのは、共感できる人物であることです。

具体的なエピソードを盛り込むと、物語に深みが出ます。ストーリーは長すぎても短すぎてもいけません。SNSなら数行、ウェブサイトなら数百字、動画なら1〜2分程度が目安です。

ステップ4:チャネル選定

作成したストーリーを、どこで伝えるかを決めます。チャネルによって、適した表現方法が異なります。

  • ウェブサイト:ブランドストーリーのページを設けるのが効果的です。創業の背景や、商品開発の裏側を詳しく語ることができます。
  • SNS:短いストーリーを継続的に発信するのに適しています。日々の活動や、社員の想い、消費者の声などを小さな物語として共有しましょう。
  • 動画:感情に訴えかける力が最も強いメディアです。表情や声のトーン、音楽などを使って、ストーリーを立体的に表現できます。
  • パッケージや店頭POP:ストーリーを伝える重要なタッチポイントです。限られたスペースでも、一言のメッセージで想いを伝えることは可能です。

複数のチャネルを組み合わせることで、より多くの消費者にストーリーを届けられます。ただし、どのチャネルでも一貫したメッセージを発信することが重要です。

ステップ5:効果測定

ストーリーテリングマーケティングの効果を測定することも忘れてはいけません。ただし、従来の広告効果測定とは異なる指標を見る必要があります。

まず注目すべきは、エンゲージメント率です。SNSでのいいねやシェア、コメントの数。ウェブサイトでの滞在時間や、ストーリーページの閲覧数。これらは、ストーリーがどれだけ人々の心に響いたかを示す指標です。

他にもブランド認知度やブランドイメージの変化も重要です。定期的なアンケート調査を通じて、消費者がブランドをどう認識しているかを把握しましょう。

また口コミやレビューの内容も貴重なデータです。消費者が自分の言葉でブランドを語っているか。ストーリーに言及しているか。こうした質的なデータから、ストーリーの浸透度が分かります。

ストーリーテリングの効果は短期的には現れにくいといわれることもあります。中長期的な視点で、ブランド価値の向上を測定していくことが大切です。

ストーリーテリングマーケティングを成功させるポイント

消費者目線・一貫性・真実性の3原則

ストーリーテリングマーケティングを成功させるには、3つの原則を守ることが重要です。

消費者目線を忘れない

最も陥りやすい失敗は、自社目線のストーリーになってしまうことです。「我が社は創業100年の歴史があり」「最新技術を駆使して」といった語り方は、企業の自慢話に聞こえてしまいます。

消費者が知りたいのは、その商品が自分にどんな価値をもたらすのかです。ストーリーは、常に消費者の視点から語る必要があります。

例えば、「100年の歴史」を語るなら、「100年間、お客様の声に耳を傾け続けてきました」という表現の方が響きます。技術を語るなら、「この技術によって、あなたの毎日がこう変わります」と伝えるべきです。

一貫性を保つ

ブランドのストーリーは、すべてのタッチポイントで一貫している必要があります。ウェブサイトで語っている想いと、店頭での接客が矛盾していたら、消費者は混乱します。

一貫性は、信頼の基盤です。「このブランドは、いつも同じ価値観を大切にしている」と感じてもらえれば、消費者との絆は深まります。

社内での共有も重要です。すべての社員が、ブランドのストーリーを理解し、自分の言葉で語れるようにしましょう。そうすることで、消費者接点のあらゆる場面で、一貫したメッセージを届けられます。

真実性を大切にする

ストーリーは、事実に基づいている必要があります。誇張や虚偽は、必ず見抜かれます。特にSNS時代においては、嘘はすぐに拡散され、ブランドの信頼を大きく損ないます。

完璧なストーリーである必要はありません。むしろ、失敗や試行錯誤のエピソードの方が、人間味があって共感を呼びます。

例えば、「最初の試作品は大失敗でした。しかし、その失敗から学んだことが、今の商品につながっています」といった正直な語り方の方が、信頼されます。

真実性とは、飾らないことです。ありのままの想いを、誠実に伝える。それが、最も強いストーリーになるのです。

よくある質問(FAQ)

ストーリーテリングマーケティングの導入を検討する際に、よく寄せられる疑問にお答えします。

Q. ストーリーテリングマーケティングは小規模な企業でも実践できますか?

はい、むしろ小規模な企業の方が実践しやすい場合があります。大企業よりも創業者や開発者の想いが見えやすく、意思決定も早いため、一貫したストーリーを発信しやすい環境にあります。予算をかけなくても、SNSやウェブサイトから始めることが可能です。

Q. ストーリーが思いつかない場合はどうすればいいですか?

どのブランドにも必ずストーリーはあります。創業のきっかけ、開発中の苦労、お客様からの声で気づいたこと、こだわりの製法や素材選びの理由など、日常の中にストーリーの種は眠っています。社内の関係者にインタビューを行い、エピソードを集めることから始めてみてください。

Q. ストーリーテリングマーケティングの効果はどのくらいで現れますか?

ストーリーテリングマーケティングは、短期的な売上向上よりも中長期的なブランド価値の構築を目的としています。効果が実感できるまでには数ヶ月から1年程度かかることが一般的です。エンゲージメント率やブランド認知度の変化を継続的に測定しながら、根気強く取り組むことが大切です。

Q. BtoB企業でもストーリーテリングマーケティングは有効ですか?

有効なケースもあります。BtoB取引でも、最終的に意思決定を行うのは人間です。企業の理念や技術開発への想い、顧客の課題解決に取り組む姿勢などを物語として伝えることで、競合との差別化や信頼構築につながります。

Q. 機能訴求とストーリーテリングは両立できますか?

両立可能です。機能訴求が不要になるわけではありません。重要なのは、機能を伝える際にも「なぜその機能が生まれたのか」「誰のどんな課題を解決するのか」という背景を添えることです。機能とストーリーを組み合わせることで、より説得力のあるコミュニケーションが実現できます。

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ストーリーテリングマーケティングを実践する上で、消費者の声を理解することは不可欠です。しかし、従来の市場調査は時間もコストもかかります。

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まとめ

価格や機能だけでは差別化が難しい時代において、ストーリーテリングマーケティングは強力な武器となります。商品の背景にある想いを物語として伝えることで、消費者の記憶に残り、価格以外の価値で選ばれるブランドになれるのです。

どのブランドにも、ストーリーがあります。それは、創業の想いかもしれませんし、開発の苦労かもしれません。あるいは、消費者との出会いから生まれた気づきかもしれません。

その想いを言葉にし、消費者に届けることから始めてみましょう。価格競争から抜け出し、選ばれるブランドへと導いてくれるはずです。