【徹底解説】パーセプションフローの作り方と活用事例
消費者の購買行動が複雑化する中、「パーセプションフロー」という新しいフレームワークが注目されています。
これは、消費者が商品やサービスに対してどのように認識や印象を変化させていくのか、その心の動きを時系列で可視化する手法です。本記事では、パーセプションフローの基本やカスタマージャーニーとの違い、活用事例、実務での活かし方までを分かりやすく解説します。
パーセプションフローとは何か
パーセプションフローの定義
パーセプションフローとは、主に日本の広告・マーケティング業界で使われる消費者が商品やサービスに対して抱く「認識」や「印象」の変化を時系列で可視化するフレームワークです。
従来のマーケティングでは消費者の「行動」に注目することが多かったのですが、パーセプションフローでは「心の動き」や「認識の変化」に焦点を当てています。具体的には、ある人が新しい飲料を知って興味を持ち、購入してファンになるまでの「心の変化」を段階的に整理します。消費者の内面の変化を丁寧に追いかけることで、より本質的なマーケティング施策を立案できるようになります。
なぜ今パーセプションフローをつかうのか
近年、消費者の購買行動は複雑化の一途をたどっています。SNSや口コミサイトの普及により、情報の受け取り方や意思決定のプロセスが多様化し、従来の「行動」だけを追う手法では消費者の本音を捉えきれなくなってきました。
実際のところ、ある商品を「知っている」だけでは購入には至りません。「信頼できる」「自分に合っている」といった認識の変化があって初めて、購買行動につながります。
こうした背景から、消費者の認識や感情の変化を可視化し、施策に活かすパーセプションフローが注目を集めています。デジタル化の進展により、消費者が情報を得る手段やタイミングが多様化したことも、その必要性を高めています。
パーセプションフローの歴史と背景
この考え方は、欧米のマーケティング分野で2000年代後半から徐々に広まりました。日本でも2010年代以降、消費者インサイト(深層心理)を重視する企業が増えたことで、導入が進んでいます。
背景には、従来のカスタマージャーニーだけでは捉えきれない「認識の変化」や「感情の揺れ動き」を重視する流れがあります。
家電量販店での購買行動を考えてみましょう。単に「来店→比較→購入」という行動だけでなく、「どのタイミングで安心感を持ったか」「どんなきっかけで購入を決意したか」といった心の動きが重要視されるようになりました。
パーセプションフローは、従来のAIDMAやAISASといった消費者行動モデルの進化系ともいえます。これらのモデルが「認知→興味→欲求→記憶→行動」といった行動の流れを重視していたのに対し、パーセプションフローは「認識の変化」に着目し、消費者の本音や心理的な障壁をより明らかにすることを目指しています。
カスタマージャーニーとの違い
行動軸と認識軸の違い
カスタマージャーニーは、消費者の「行動」を時系列で整理する手法です。「Webサイトを訪問」「商品を比較」「購入」といった行動の流れを可視化します。
一方、パーセプションフローは「認識」や「感情」の変化に焦点を当てます。「興味を持つ」「信頼感が高まる」「必要性を感じる」といった心の動きを段階的に整理することで、消費者の本音や購買の動機を深く理解できます。
同じ「商品を比較する」という行動でも、「価格が安いから比較している」のか、「本当に自分に合うか不安だから比較している」のかで、施策の打ち手は大きく変わります。行動の裏にある認識の変化を捉えることが、パーセプションフローの大きな特徴です。
参考:カスタマージャーニーとは?マーケティングに欠かせない理由を解説
どちらを使うべきか
カスタマージャーニーとパーセプションフローは、どちらも消費者理解のための有効な手法ですが、目的によって使い分けることが大切です。
新商品の認知拡大やブランドイメージの向上を目指す場合は、消費者の認識変化に注目するパーセプションフローが効果的です。一方、購買プロセスの最適化や接点ごとの改善を重視する場合は、カスタマージャーニーが適しています。
実際には、両者を組み合わせて活用することで、より多角的な消費者理解が可能になります。カスタマージャーニーで「どこで離脱が多いか」を把握し、パーセプションフローで「なぜ離脱したのか」を深掘りする、といった使い方が考えられます。
パーセプションフローの構成要素
状態変化のステップ
パーセプションフローは、消費者の認識がどのように変化するかを「ステップ」として整理します。一般的には、以下のような段階に分けて考えます。
- 認知 :商品やサービスの存在を知る段階です。テレビCMやSNS広告で初めて知るケースが該当します。
- 興味・関心 :興味を持ち、もう少し詳しく知りたいと感じる段階です。友人の口コミやレビューサイトをチェックすることが多いです。
- 比較・検討 :他の商品と比較し、自分に合うかどうかを考える段階です。価格や機能、評判などを調べます。
- 信頼・納得 :購入に向けて信頼感や納得感が高まる段階です。実際に店舗で商品を手に取ったり、店員の説明を聞いたりすることが多いです。
- 購入 :実際に商品を購入する段階です。
- 体験・評価 :購入後に商品を使い、その満足度を評価する段階です。ここで満足度が高ければ、リピートや口コミにつながります。
このように、認識の変化を細かく分解することで、どの段階で課題が生じているかを把握しやすくなります。
購買口実と社会便益
パーセプションフローでは、消費者が「なぜ買うのか」という購買口実(理由)や、商品・サービスが社会にもたらす便益(メリット)も整理します。
エコバッグの場合を考えてみると、「環境に優しいから買う」という購買口実と、「プラスチックごみ削減に貢献できる」という社会便益が考えられます。個人の動機と社会的な価値の両面を意識することで、より説得力のあるマーケティング施策が設計できます。
パーセプションフローのメリット
消費者心理の可視化
パーセプションフローを活用する最大のメリットは、消費者の心理的な変化を具体的に把握できる点です。ある段階で「不安」や「疑念」が生じている場合、その原因を特定しやすくなります。
家電製品の購入プロセスを分析した際、「価格が高い」「使い方が難しそう」といった不安が購買の障壁になっていることが分かれば、説明会や体験イベントを実施するなど、具体的な対策を講じることができます。
マーケティング施策への活用
パーセプションフローは、マーケティング施策の設計や改善にも大いに役立ちます。認知段階での課題が明らかになれば、広告やPRの強化が必要だと判断できます。また、購入後の満足度向上施策も、どの段階で何が必要かを明確にできます。
さらに、消費者の認識変化を可視化することで、社内の関係者間で共通認識を持ちやすくなります。これにより、部門横断的な施策の連携や、スピーディな意思決定が可能になります。
パーセプションフローの作り方
目的・戦略の明確化
まず、パーセプションフローを作成する目的や戦略を明確にしましょう。「新商品の認知拡大」や「既存顧客のロイヤルティ向上」など、何を達成したいのかを具体的に設定します。
目的が曖昧だと、フロー全体がぼやけてしまい、効果的な施策につながりません。最初にしっかりとゴールを定めることが、成功への第一歩です。
ターゲット設定とペルソナ設計
次に、ターゲットとなる消費者像を具体的に設定します。ペルソナ(架空の顧客像)を作ることで、よりリアルな認識変化を描きやすくなります。
「30代女性・都内在住・健康志向」といった具体的な人物像を設定し、その人がどのような情報に触れ、どんなきっかけで認識が変化するのかを想像します。このプロセスを丁寧に行うことで、実際の消費者に寄り添ったフローが作れます。
状態変化のマッピング
最後に、ターゲットの認識がどのように変化するかを時系列でマッピングします。この際、各ステップで消費者が感じることや、行動に移すきっかけとなる要素も整理します。
実際に顧客インタビューやアンケートを活用すると、より精度の高いフローが作れます。「どのタイミングで不安を感じたか」「何が購入の決め手になったか」といった具体的な声を集めることで、仮説だけでなく実態に即したパーセプションフローが完成します。
パーセプションチェンジ(認知変容)の重要性
パーセプションチェンジとは
パーセプションチェンジとは、消費者の認識やイメージが変化することを指します。「高いと思っていた商品が、実はコスパが良いと気づく」といった変化がその一例です。
この認知変容が起きることで、購買行動やブランドへの愛着が生まれやすくなります。逆に、誤った認識が定着してしまうと、どれだけ広告を打っても効果が出にくくなります。
成功事例と失敗例
認識変容したブランド・商品の成功事例としては、代表的な例として健康飲料の「トクホ」認定が挙げられます。トクホ認定がされている商品をみただけで、「健康に良い」という認識が広がり、日頃から身体に気を付けている健康意識が高い消費者や罪悪感のない飲料を探している消費者にとっての購買意欲が高めています。
一方、よくある失敗例としては、機能が多すぎて「使い方が難しそう」と誤解され、売上が伸びなかった家電製品などが考えられます。どのように便利な機能であっても使いにくそう、どのように使えばよいかわからないという認識をされてしまった場合は消費者には響かず、購買に至ることができません。
日常生活でも「この商品は高級そうだから自分には関係ない」と思い込んでいたものが、実は手頃な価格であると知った瞬間に購入意欲が高まる、といったケースもよく見られます。
このような認識変容をするためのきっかけづくりが施策に繋がりますが、どのような施策がターゲットの認識変容につなげるきっかけになるかはやはりターゲットへの理解が重要になってきます。
パーセプションフローの活用事例
パーセプションフローは、さまざまな業界で活用されています。一般的な例を交えて紹介していきます。
たとえば食品業界では「安全・安心」の認識を高めるための施策設計に使われるでしょう。新商品を発売する際、消費者が「本当に安全なのか」「どんな原材料が使われているのか」といった不安をどのタイミングで感じるのかを把握し、適切な情報発信を行うことで、信頼感を高めることができます。
またIT業界の場合では「使いやすさ」や「サポート体制」への認識変化を可視化し、サービス改善に役立てることができます。クラウドサービスの導入を検討する企業が「セキュリティは大丈夫か」「サポートは充実しているか」といった不安をどの段階で感じるのかを分析し、FAQの充実やサポート体制の強化につなげられます。
一部の一般的な例なので、ほかにも様々なパターンで活用することができます。まずは自分が関わっている業界やサービスを取り上げて使ってみましょう。
失敗しやすいパターンと回避策
一方でよくある失敗パターンは、「自社目線」でフローを作ってしまうことです。消費者の本音や実際の認識変化を無視すると、的外れな施策になりがちです。
企業側が「この機能は絶対に魅力的だ」と思い込んでいても、消費者にとっては「使い方が分かりにくい」「本当に必要なのか分からない」と感じている場合があります。こうしたギャップを埋めるためには、実際の顧客の声を積極的に取り入れることが重要です。
また、フローを一度作っただけで満足してしまい、定期的な見直しを怠ることも失敗の原因となります。市場環境や消費者の価値観は常に変化しているため、定期的にフローをアップデートすることが大切です。
パーセプションフローを支えるデータ活用
パーセプションフローを精度高く設計するには、消費者データの活用が不可欠です。アンケートやインタビュー、SNS分析などを通じて、リアルな認識変化を把握できます。
実際の購入者に「どのタイミングで不安を感じたか」「何が購入の決め手になったか」といった質問を投げかけることで、仮説だけでなく実態に即したフローが作れます。データが不足していると、どうしても仮説ベースのフローになり、実効性が下がる可能性があります。
Knowns 消費者リサーチでできること
Knownsは、消費者意識データを格納したサブスクリプション形式のデータプラットフォームサービスです。個別のアンケート設計・配信から既に格納されている消費者データを使用したさまざまなダッシュボードをどのように普段の業務に活用するかまで一貫してサポートします。
具体的にどのようなデータを見ることができるかはサービス資料も併せてご確認ください。
Knownsのデータを活用したパーセプションフローの活用
Knownsのデータを活用することで、仮説だけでなく消費者の声をもとにしたパーセプションフローが作れます。既存のデータや個別配信するアンケート結果から「信頼感が高まる瞬間」や「不安を感じるポイント」を特定し、施策に反映することも可能です。
また、Knownで取集したデータと自社または別の手段で取得しているデータを組み合わせることで、より立体的な消費者理解が可能になります。Knownsのファネルデータで「比較段階で離脱が多い」と分かった場合、インタビューでその段階の消費者が「なぜ離脱したのか」を別で深掘りすることで、より具体的な改善策を導き出せます。
このように、いくつかのデータを組み合わせたデータドリブンなアプローチが、より効果的なマーケティング施策につながります。
他のマーケティング手法との比較
パーセプションフローは、カスタマージャーニーやファネル分析など他の手法と組み合わせて使うことで、より多角的な施策設計が可能です。
ファネル分析で「どこで離脱が多いか」を把握し、パーセプションフローで「なぜ離脱したのか」を深掘りする、といった使い方が考えられます。
さらに、カスタマージャーニーで「どの接点が重要か」を特定し、パーセプションフローで「その接点でどんな認識変化が起きているか」を分析することで、より精度の高い施策が実現できます。複数の手法を組み合わせることで、消費者理解がより深まり、マーケティングの成果につながります。
パーセプションフローを実務に活かすためのポイント
ただしパーセプションフローを学んでも、実際の業務にどう落とし込めばよいか悩む方は多いのではないでしょうか。特に、メーカーのマーケティング担当者として配属されたばかりの方や、知識に自信がない方にとっては、フレームワークを「知っている」状態から「使いこなす」状態に移行するのが難しく感じられるかもしれません。
まずは、既存の自社商品やサービスについて、簡単なパーセプションフローを作成してみることをおすすめします。最近発売した商品について、消費者がどのような認識の変化を経て購入に至るのか、社内で意見を出し合いながら整理してみましょう。このプロセスを通じて、現場の課題や消費者の本音が見えてくるはずです。
データ収集・分析の課題と解決策
「データが集まらない」「分析の仕方が分からない」といった悩みもよく聞かれます。この場合、まずは社内にある既存データ(顧客アンケート、営業日報、カスタマーサポートの問い合わせ内容など)を活用することから始めてみましょう。
また、外部のリサーチサービスやSNS分析ツールを活用するのも有効です。データ分析に自信がない場合は、シンプルな集計やグラフ化から始めてみてください。「どの段階で離脱が多いか」「どの認識変化が購買につながっているか」を可視化するだけでも、十分に実務で役立ちます。
新しいマーケティング手法へのキャッチアップ
パーセプションフローは、今後ますます重要性が高まると考えられています。Googleで検索しながらフレームワークや分析手法を勉強している方も多いと思いますが、最新の事例や他社の取り組みを積極的にキャッチアップすることも大切です。
業界セミナーやウェビナーに参加したり、専門メディアの記事を定期的にチェックしたりすることで、実践的な知識が身につきます。また、社内外のマーケター同士で情報交換を行うことで、自分では気づかなかった視点やアイデアを得ることができます。
まとめ
パーセプションフローは、日本独自のフレームワークですが消費者の認識変化を可視化し、マーケティング施策の精度を高めるための強力な手法です。カスタマージャーニーとの違いや、データ活用の重要性を理解し、実際の顧客の声を反映させることが成功のカギとなります。
マーケティング担当者として、消費者の心の動きを捉える視点を持つことは、今後ますます重要になっていくでしょう。ぜひ、パーセプションフローを活用し、より深い消費者理解と成果につなげましょう。