カテゴリーエントリーポイント分析の具体事例|カップアイス市場編
コンビニのアイスコーナーで立ち止まった時、あなたはどんな基準でアイスを選んでいますか。
手に取るその瞬間は、確かに何気なく選んでいるかもしれませんが、
私たちがアイスを選ぶ瞬間には、実は心理的な要因が働いています。
「今日は頑張った自分にご褒美を」という時と、
「とにかく暑いから何か冷たいものを」という時では、同じ人でも全く違うブランド・商品を選ぶと思います。
このような「購買の文脈」を科学的に分析する手法が、カテゴリーエントリーポイント(CEP)分析です。
本記事では、実際のカップアイス市場調査データを基に、
この分析手法がどのように具体的なブランド戦略に活用できるかを詳しく解説します。
CEP分析で購買の「文脈」を読み解く
CEP(Category Entry Points)とは、消費者が特定のカテゴリを購入しようと思う具体的なオケージョンのことを指します。
従来の認知度調査とは異なるので、例を出して解説します。

例えば、炭酸飲料を例に考えてみましょう。コカ・コーラという商品を知っている人は99%以上でしょう。
しかし、「運動後に喉が渇いた時」「友人との食事で乾杯したい時」「仕事の合間に気分転換したい時」のそれぞれで、全てコカ・コーラが最初に思い浮かぶわけではないと思います。
実際、コカ・コーラの調査では、「口寂しい時」「甘い物がほしい時」「喉を潤したい時」「運動で疲れた時」「気分転換したい時」「刺激がほしい時」といった購買文脈が存在することがわかっています。
これらの各文脈で、どのブランドが最初に想起されるかが、実際の購買行動と強い相関を持つことがわかっています。
メンタル・マーケットシェア(MMS):新しい市場測定指標
CEP分析では、3つの指標を組み合わせて「メンタル・マーケットシェア」を算出します。
段階的に算出していくのですが、順番にご説明します。

1.CEPパワー(CEP自体の想起率)
まずは、それぞれのCEPが全体の中でどれくらい頻出しているかを見ます。
カップアイスの例では、たとえば「暑さをしのぎたい」、「自分をねぎらいたい」など各CEPの頻出度を調査します。
2.想起シェア(各CEPにおけるブランド構成比)
次に、各CEPごとに、どのブランドがどれくらい思い出されたかを見ていきます。
たとえば「自分をねぎらいたい」というCEPがCEPsのうち50%を占めていたと仮定します。
このうち15%がブランドAだったとしたら、ブランドAの想起シェアは30%となります。
3.CEPシェア(CEPパワー × 想起シェア)
最後に、CEPごとの想起シェアにCEP自体のパワーを掛け合わせることで、
ブランドがどの文脈でどれだけ思い出されているかをスコア化します。
【メンタル・マーケットシェア算出例】
「自分をねぎらいたい(CEP1)」というCEPが全体の50%
CEP1内でブランドAの想起シェアが30%
ブランドAのCEP1におけるCEPシェアは 0.5 × 0.3 =15%
このように、各CEPでのCEPシェアをブランドごとに合算することで、
そのブランドが市場全体でどれだけ思い出されやすいかを定量的に表すことができるのです。
この合算値を「メンタル・マーケットシェア(MMS)」と呼んでいます。
メンタル・マーケットシェア=ブランドの強さ
メンタル・マーケットシェアは、単なる認知度や好意度とは異なり、
「生活者の具体的な購買文脈で、どれだけ“真っ先に思い出されるか”」というブランドのリアルな強さを反映しています。
- 特定のCEPでは強いが、他の文脈では忘れられている
- ライバルブランドが特定CEPで急成長している
- 想起されてはいるが、MMSには結びついていない(=マイナーCEP中心)
といったブランドごとのポジションを把握することで、
打ち手の優先順位やメッセージングの調整ができるようになります。
カップアイス市場のCEP分析
カップアイス市場の調査結果を見てみると、興味深い傾向が明らかになりました。
情緒的なオケージョンが上位

TOP5のCEPは以下の通りです。
1位「暑い日にアイスで暑さをしのぎたい」(18.8%)
2位「一日の終わりに特別感を味わいたい」(11.4%)
3位「特に頑張った自分をねぎらいたい」(11.1%)
4位「アイスを食べてやる気を出したい」(9.2%)
5位「なんとなく小腹を満たしたい」(8.8%)
1位の「暑さしのぎ」を除くと、2位以下はすべて情緒的なオケージョンが占めています。
これは、カップアイス市場において機能的価値よりも情緒価値が重要であることを示しています。
自分をねぎらいたい若年層が多い傾向に
年齢別や性別でもそれぞれ見ていくと、興味深いことがわかります。
下記では、情緒的なオケージョンほど若年層の傾向が強いことを示しています。

これ以外でも今回の資料では、性別差でのデータや購入頻度に応じたデータ、
それらから見えてくるカップアイス市場の消費者ニーズなども掲載しております。
資料を確認したいかたは、下記からご覧ください。
CEPを深掘り:「ねぎらい」購買者の実態
ここからは、CEPの一つ、「特に頑張った自分をねぎらいたい」という項目について深掘りしてみました。
このCEPの特徴は下記のような傾向がありましたが、
・性別:女性に顕著に多い
・年代:20~30代で高い
・喫食頻度:全体的に高い
さらに深ぼって見てみると興味深い消費者像が浮かび上がってきました。
満足できるものを買いたい

「ねぎらい」購買者の特徴的な傾向として、多少の追加コストを払ってでも満足できるものを買いたい意向が強いことが明らかになりました。
全体平均と比較して「品質重視」の姿勢が顕著に現れており、価格よりも満足度を重視する購買スタンスを持っています。
いくつもの選択肢から熟考する傾向が強い

また、選択判断軸を見ると熟考傾向が強く、選択肢を広く検討する特徴があります。
衝動的な購買よりも慎重な商品選択を行っていることがわかりました。
マーケティングのヒントになる重要な示唆も
この層の購買行動の特殊性も見えてきています。
「ねぎらい」購買者は、味・口当たり・食感などを最重視しています。
その一方で、高級感などの情緒的要素はそれほど重視していません。
つまり、「ねぎらい」という情緒的なCEPでありながら、実際の購買基準は合理的なのです。
資料では、この「ねぎらい」購買者と「特別感」「やる気向上」といった他の情緒CEP購買者との詳細な比較分析も掲載しており、
それぞれが重視する要素の違いが一目でわかるようになっています。
ご興味がある方は、是非レポートを見てみてください。