カスタマージャーニーとは?マーケティングに欠かせない理由を解説
カスタマージャーニー

カスタマージャーニーとは?マーケティングに欠かせない理由を解説


「お客様がなぜ購入に至ったのかわからない」「マーケティング施策の効果が見えにくい」そんな悩みを抱えているマーケティング担当者の方も多いのではないでしょうか。

カスタマージャーニーは、顧客が商品やサービスを知り、購入、利用、そして継続・再購入に至るまでの一連の体験を「旅」に例えた概念です。現代のマーケティング戦略を設計する上で、もはや欠かせない基本的な考え方となっています。

カスタマージャーニーとは?顧客行動を可視化する強力なツール

カスタマージャーニーは、顧客の行動や思考、感情を時系列で捉え、可視化するためのフレームワークです。これを図示したものを「カスタマージャーニーマップ」と呼びます。

マップには、一般的に以下の要素が含まれます:

  • 顧客の行動プロセス(認知から購入後までの段階)
  • 各段階における顧客とのタッチポイント(接点)
  • 顧客の感情や思考の変化
  • 課題や障壁
WEBサイト、SNS、実店舗、コールセンターなど、顧客との多様な接点を整理することで、より効果的なマーケティング施策を設計できるようになります。

カスタマージャーニーの誕生背景

カスタマージャーニーの概念は、1998年頃に英国の経営コンサルタント会社OxfordSM(当時はOxford Corporate Consultants)によって考案されました。当初は、英国と欧州を結ぶ国際列車ユーロスターのブランド戦略やミッション策定の過程で活用されたのが始まりとされています。

その後、フィリップ・コトラーの著書『コトラーのマーケティング4.0』が発刊されたことで、日本でも広く知られるようになりました。インターネットやスマートフォンの普及で消費者の購買行動が複雑化し、企業が顧客の行動を理解するためのツールとして注目を集めています。

「もう古い」は本当か?進化し続けるカスタマージャーニー

「カスタマージャーニーはもう古い」という声を聞いたことがあるかもしれません。しかし実際には、時代に合わせて進化を続けているのが現状です。

従来は直線的な購買プロセスを想定していましたが、現代の消費者行動はより複雑になっています。

近年注目されているのが、コトラーが提唱した「5Aカスタマージャーニー」です。従来型と異なり、SNSからの流入や情報共有などインターネットの影響を加味した蝶ネクタイ型のモデルを提案しています。「パルス型消費」のような従来の理論では説明できない行動にも対応できるよう発展しているのです。

つまり、古くなったのではなく、消費者行動の変化に合わせて進化しており、顧客視点に立ったマーケティング戦略を考える上で今も重要な役割を果たしています。

なぜカスタマージャーニーが重要なのか?

現代のマーケティングにおいて、その重要性はますます高まっています。多様化する消費者行動を理解し、効果的なマーケティング戦略を立てるために欠かせない概念となっているからです。

顧客接点(タッチポイント)の複雑化

インターネットとスマートフォンの普及により、消費者は場所や時間を選ばず自由に情報収集ができるようになりました。

以前は店舗や広告など限られていた顧客接点が、現在ではWebサイト、SNS、アプリ、メールマガジンなど多岐にわたっています。

その結果、企業側からすると「顧客がいつ自社の商品やサービスを発見し、何の理由があって購入に至ったのか把握することが困難」な状況が生まれています。

このタッチポイントの複雑化により、単純なマーケティング手法では効果が出にくくなっています。消費者の行動や心理を可視化し、各接点での最適なアプローチを設計するためにカスタマージャーニーが重要視されるようになりました。

購買行動の変化とマーケティングの変容

消費者の「価値観」と「情報収集の手段」の多様化により、画一的な手法で顧客にアプローチすることが難しくなっています。特にBtoCでは、「予測したプロセスを踏まずに商品やサービスを購入するケース」や「予測したプロセス間を行ったり来たりして購入にたどり着くケース」が増えています。

こうした変化に対応するため、企業は「今現在の自社の顧客となりえる人々が置かれている状況と行動傾向を深く理解し、それぞれに合わせたマーケティング施策」を実施する必要があります。カスタマージャーニーを活用することで、顧客のフェーズごとの行動・心理を可視化し、「態度変容(認知から購入に至るまでの心理変化)」を適切に促す戦略を立てることができるのです。

カスタマージャーニーを活用する目的とメリット

カスタマージャーニーの活用により、企業はさまざまな目的を達成し、大きなメリットを得ることができます。単なるマーケティングツールという枠を超え、企業全体の戦略立案や顧客体験の向上に貢献する重要な役割を果たしています。

顧客理解を深める

最大のメリットは「顧客理解の深化」です。顧客が製品やサービスに触れる様々な接点での体験や感情、ニーズ、行動パターンを可視化することで、従来の定量データだけでは把握しきれない顧客の感情や意思決定プロセスを詳細に分析できます。

購入を躊躇する理由やサービス利用時の不満など、数字には表れにくい感情的な要素も特定できるようになります。

ターゲットごとの施策最適化

マーケティング施策の目的が明確になります。顧客が各ステージでどのような情報を求め、どのような意思決定をするかを把握できるため、ターゲットに合わせた施策を最適化できます。

例えば、認知段階では最適なチャネルでの広告による認知度向上、検討段階では詳細な商品情報の提供、購入後はアフターフォローなど、各段階に応じた適切なコミュニケーション施策を展開できます。

社内の認識統一と連携強化

カスタマージャーニーマップは、社内での認識を統一する強力なツールです。

マーケティング、営業、カスタマーサポートなど異なる部門が同じマップを共有することで、組織全体で一貫した顧客像を理解し、対応することが可能になります。

特にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する際には、従来の縦割り組織を超えて、顧客中心の横串の組織作りを実現するツールとして効果を発揮します。

マーケティング施策の抜け漏れ防止

顧客の各ステージにおける課題が明確になり、マーケティング施策の抜け漏れを防止できます。顧客の行動をタッチポイントごとに細分化することで、具体的な課題を発見しやすくなり、優先的に対策を取るべきポイントも明らかになります。

これにより、限られた人的リソースや予算を有効活用でき、コスト削減にもつながります。また、KPIの設定も容易になり、各施策の効果測定が可能になります。

UX向上とコンバージョン改善

マップから抽出した顧客課題をもとに、UXを改善することができます。顧客がサービスを利用する際のストレスポイントを特定し、それらを解消することで、顧客満足度の向上とコンバージョン率の改善につなげられます。

WebサイトやアプリのUI/UXの改善、タッチポイントごとに提供するコンテンツの最適化など、具体的な改善アクションにつなげやすいという特徴があります。

カスタマージャーニーマップの作り方【7ステップ】

効果的なマップを作成するには、体系的なアプローチが必要です。ここでは、成功するマップ作りの7つのステップをご紹介します。

ステップ1:ゴールの設定とKPI設計

第一歩は、明確なゴールを設定することです。「何のためにマップを作るのか」という目的を明確にし、それに合わせたKPIを設計します。

ゴールはできるだけシンプルに設定することをお勧めします。複雑なゴールは、マップ自体も複雑化させてしまうためです。マーケティング施策の優先課題を把握するのか、顧客体験の問題点を抽出するのか、目的によってマップの種類も変わってきます。

ステップ2:ターゲットペルソナの明確化

次に、マップの「主人公」となるペルソナを設定します。名前、年齢、性別、職業、家族構成、趣味趣向に至るまで細かく設定するのがポイントです。

ペルソナが曖昧だと、以降のステップの精度が落ちるため、顧客のリアルな人物像が浮かび上がるまで考え抜くことが重要です。ペルソナは複数設定する場合もあります。

ステップ3:フェーズ・態度変容ステップの設計

ペルソナが設定できたら、購買プロセスのフェーズを定義します。「認知→興味関心→検討→購入→利用」といった時系列を横軸に配置します。

業界や商品特性によって適切なフレームワーク(AISAS、AIDMA、DECAXなど)を選び、顧客の態度変容を表現しましょう。

ステップ4:行動・タッチポイントの整理

各フェーズにおける顧客の行動とタッチポイント(接点)を整理します。Webサイト、SNS、店舗、口コミサイトなど、顧客がどのような手段で情報を得て行動するかを詳細に洗い出します。

リアルとデジタルの両方の接点を考慮することが重要です。

ステップ5:感情・思考・課題を理解

行動とタッチポイントが整理できたら、各接点での顧客の感情や思考、抱える課題を想像します。「この洋服は素敵だけれど、ほかのアイテムと合わせるのが難しそう」といった具体的な思考を書き込みましょう。

ポジティブな感情とネガティブな感情の両方を考慮することで、課題点が見えてきます。

ステップ6:施策・コンテンツ・チャネルの配置

顧客の感情や課題をもとに、各フェーズで実施すべきマーケティング施策やコンテンツ、最適なチャネルを検討します。

この段階では実現性を考慮せず、できるだけ多くのアイデアを出すことが大切です。その後、優先順位を設定して実行計画を立てます。

ステップ7:マップ化と社内共有

最後に、これまでの情報を統合してマップを完成させ、社内の関係者全員と共有します。

マーケティング部門だけでなく、営業、開発、カスタマーサポートなど、顧客接点に関わるすべての部署での共有が重要です。

共有により、顧客に対する認識が統一され、一貫した顧客体験の提供が可能になります。

作成したマップは定期的に見直し、実際の顧客行動データに基づいて改善していくことが成功の鍵です。「作って終わり」ではなく、PDCAサイクルを回し続けることで、より精度の高い顧客理解とマーケティング戦略の立案が可能になります。

作成時の注意点とよくある失敗

効果的なマップを作り、活用するためには注意すべきポイントがあります。ここでは、成功のために避けるべき失敗例と対処法をご紹介します。

憶測ではなくファクトベースで作成する

よくある失敗は、担当者の理想や願望を反映させすぎることです。「顧客はこう行動してほしい」という企業視点ではなく、実際の顧客行動に基づいて作成することが重要です。

アンケート調査やサイト内の行動分析などから得られたデータを活用し、ファクトベースで作成しましょう。

金融機関の事例では、「コンテンツ配信を通じて顧客とのつながりを強化し、ニーズが高まったところで商品について訴求する」というプロセスのマップを描きましたが、実際には顧客が金融機関のコンテンツを熱心に読むとは限りません。顧客の実態を正確に把握せずに作成したマップは、効果的な施策につながらないのです。

最初から作り込みすぎない

「子供が生まれてから高校を卒業するまでの18年間」というあまりに長期間のマップを作ろうとしても失敗してしまいます。

初めから複雑なマップを作成しようとすると、全体像が把握しづらくなり、活用も難しくなるのです。まずはシンプルに作成し、徐々に精度を高めていく方が効果的です。

運用と改善(PDCA)を前提に

「作って終わり」ではありません。顧客の行動や市場環境は常に変化しているため、定期的に見直し、最新の情報を反映させることが重要です。

半年や1年単位でマップを更新し、PDCAサイクルを回すことで、マーケティングツールとしての効果を最大化できます。

BtoBとBtoCでの違いに注意する

BtoBとBtoCでは特性が大きく異なります。BtoBでは、最終的な購入決定に関わる人が複数いることが一般的で、社内での承認プロセスも存在します。一方、BtoCでは個人が決定権を持つため、比較的シンプルなプロセスになります。

BtoB向けのマップを作成する際は、企業の課題把握、比較検討の前提、複数部署の連携、優先度設定が重要です。

活用の実践例と効果

実際のビジネスシーンでは、数多くの成功事例が報告されています。企業がどのように実践し、具体的な成果を上げているのか見ていきましょう。

メールマーケティングへの応用

メールマーケティングに応用することで、顧客の行動や関心に合わせた最適なコミュニケーションが可能になります。

たとえば、Webサイトで特定の商品ページを閲覧したユーザーに対して、その商品に関連する情報やクーポンをタイミングよく配信することで、検討から購入までの移行率を大きく高めることができます。

こうしたシナリオ型の配信は、一律のセグメント配信と比べてエンゲージメントが大幅に向上する傾向があり、顧客のアクションに基づいた接点づくりが成果に直結します。

コンテンツ戦略との連動

コンテンツ戦略とも密接に連動します。宮崎県高千穂町観光協会では、インバウンド観光客獲得のために活用しました。

アンケート分析や聞き取り調査を通じて、高千穂町が近隣温泉街の中継地点として機能していることを理解し、旅行中(旅ナカ)のアプローチを実施。その結果、2011年以降から外国人観光客が増加し、2017年には7万人を突破するという成果を上げています。

SNS運用・広告施策の最適化

SNS運用においても効果を発揮します。マップの作成により、顧客とサービスのタッチポイントを把握し、運用すべき媒体や発信するコンテンツが明確になります。

さらに、ユーザーの行動特性に基づいてパーソナライズした情報発信を行うことで、エンゲージメントの向上やコンバージョンの最大化につながります。SNSを単なる発信チャネルではなく、顧客理解に基づいた戦略的な接点として活用することで、成果を生み出す運用が可能になります。

カスタマージャーニーは万能ではない?限界と対処法

大きな可能性を持つ一方で、実際の活用には様々な課題や限界が存在します。ここでは、効果的に活用するための限界と対処法について考えてみましょう。

作成工数がかかる

正確なマップを作成するには、相応の時間と労力が必要です。顧客の行動や心理を正確に把握するためには、インタビューやアンケート調査、アクセス解析などを実施する必要があり、それらには多くのリソースが求められます。

質の高いマップの作成には、複数部署の連携や何度ものすり合わせが必要となるため、初めて導入する場合は数ヶ月かかることもあります。

対処法: 目的に応じた適切な粒度で設計し、全体を一度に作り込まずに重要な部分から段階的に作成していきましょう。社内の各部門を巻き込むことで、より効率的に情報を収集できます。

静的なマップの陳腐化リスク

一度作成したマップをそのまま使い続けることには問題があります。消費者行動や市場環境は常に変化しており、特にデジタル時代においては変化のスピードが加速しています。

作って満足してしまうと、時間の経過とともに実態とのギャップが広がり、効果が薄れていきます。

対処法: 定期的(半年や1年単位)に見直し、最新の顧客行動データを反映させることが重要です。運用体制を明確にし、誰が更新を担当するかを決めておきましょう。

すべてを可視化できるとは限らない

典型的な顧客体験を「線」として可視化するものですが、実際の顧客行動には大きなばらつきがあります。

調査によると、マップ通りに行動する顧客は限られており、特にBtoCでは予測したプロセスを踏まずに購入するケースも少なくありません。

対処法: 万能視せず、他の分析手法と併用することが大切です。また、顧客行動のばらつきを考慮し、複数のシナリオを想定したマップ作りを心がけましょう。

まとめ:顧客理解を起点としたマーケティングを始めよう

カスタマージャーニーは単なるマーケティングツールではなく、顧客中心のビジネス展開に不可欠な戦略的枠組みです。デジタル時代において、顧客接点の複雑化やパルス型消費の台頭により、従来の直線的な購買モデルでは説明しきれない消費者行動を理解するために、その重要性はますます高まっています。

確かにマップの作成には相応の工数がかかります。また、静的なマップは時間の経過とともに陳腐化するリスクもあります。しかし、これらの課題は定期的な見直しと更新によって対処可能です。ファクトベースで作成し、シンプルさを保ち、PDCAサイクルを回すことで、その効果を最大限に引き出せるでしょう。

実際のビジネスケースからは、メールマーケティングでのクリック率10倍向上や、ECサイトでのコンバージョン率27.6%改善など、具体的な成果が示されています。これらのデータは、実践的価値を裏付けるものと言えるでしょう。

最終的に、カスタマージャーニーの本質は「顧客視点」への転換にあります。自社の都合ではなく、顧客の行動・思考・感情を起点としたビジネス設計が、現代市場での競争優位性を生み出すのです。顧客の声に耳を傾け、その体験を理解することで、真に顧客に寄り添ったサービス提供が可能になります。

「古い」概念ではなく、進化し続ける「生きた」フレームワークとして捉え、消費者行動の変化に応じて柔軟に形を変えながら、これからも多くの企業のマーケティング戦略の中核を担い続けることでしょう。

顧客理解という旅に終わりはありません。まずは今日から、小さな一歩でも構いません。お客様の声に耳を傾け、その体験を可視化してみませんか。きっと新しい発見があるはずです。