なぜあのアニメが?懐かしの楽曲で受験生に届け大手メーカーの戦略


こんにちは。ベトナム在住ライターの寺内です。

みなさん、こちらのカロリーメイトのCMの曲、何だかわかりますか?

プリキュアです…!

人気アニメ「プリキュア」シリーズの第9作「スマイルプリキュア!」のオープニングテーマ、「Let’s go!スマイルプリキュア!」のピアノアレンジが流れているのです!

毎年話題になっている「カロリーメイト」の受験生応援CM。

今回は「カロリーメイト」がなぜ「プリキュア」の楽曲を起用したのかについて、分析していきたいと思います!

大塚製薬カロリーメイト

カロリーメイト誕生秘話

「カロリーメイト」の開発のきっかけは研究員の訪問先の病院での点滴風景でした。

病気が治っても食事ができないことでなかなか社会復帰ができない患者さんのために、点滴に代わる栄養食を作りたいという思いから、宇宙食を基にした経口栄養食の研究開発がスタートしました。

1979年に前身となる医療用の濃厚流動食「ハイネックス-R」が誕生。

当時、食べ物の欧米化、インスタント食品の氾濫、朝食欠食や深夜の食事など、食生活も大きく変化しており、健康な人の栄養補助に応用する発想から、「カロリーメイト」の開発に繋がりました。

しかし品質の安定や栄養と味のバランスなど商品化には6年費やし、1983年に発売されたそうです。

カロリーメイトの特長

「カロリーメイト」には身体に必要な11種類のビタミン、5種類のミネラル、タンパク質、脂質、糖質を手軽に補給できるバランス栄養食です。

ビタミンは1日に必要な量の約半分が含まれています。
(ゼリーは10種類のビタミン、4種類のミネラル)

ブロックタイプ、ゼリータイプ、リキッドタイプがあり、シーンや気分に合わせて選べます。

ブロックタイプは1本100kcal、ゼリータイプは1袋100kcalと200kcal、リキッドタイプは1本200kcal、とカロリー計算が簡単に出来るのも特長です。

購入者分析

■ブランドデータ_カロリーメイト 認知率・好感率(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:ブランドデータ_カロリーメイト 認知率/好感率

■デモグラフィック分析_カロリーメイト 現在購入層(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:デモグラフィック分析_カロリーメイト 現在購入層

カロリーメイト購入者のデモグラ構成比をみると20代後半~50代前半が多く、
特に30代の割合が高く出ています。

男女比では女性が多いです。

■7 Journey_カロリーメイト(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:7 Journey_カロリーメイト

■ファネル分析_カロリーメイト(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:ファネル分析_カロリーメイト

「カロリーメイト」の7 Journeyを見てみると、認知率が高く、ロイヤル層の顧客も多いことが分かります。

ファネル分析では認知からの購入意向も79.5%と高く、また現在購買⇒リピート意向は97.2%とリピーターがとても多いです。​​

そのなかでやや好意的ではありますが最近購入していない​​巻き戻し層が高めです。

■競合分析_カロリーメイト 現在購入者が次回購入したいブランドランキング
(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:競合分析_カロリーメイト 現在購入者が次回購入したいブランドランキング

「カロリーメイト」現在購入者が次回購入したいと思う栄養補助食品では、カロリーメイトと同じ大塚製薬の「ソイジョイ」や味の素のスティック1本でしじみ160粒相当分のアラニン​が摂取できる飲み会前後に飲まれる「ノ・ミカタ」、アサヒの「一本満足バー」が選ばれています。​

「ソイジョイ」や「一本満足バー」は「カロリーメイト」と近いものを感じますが、「ノ・ミカタ」は多少色が異なりますね。

■競合分析_カロリーメイト 現在購入者が次回購入したいブランドランキング
(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:競合分析_カロリーメイト 現在購入者が次回購入したいブランドランキング/10代・20代前半

※絞り込み条件:10代・20代前半

今回カロリーメイトがターゲットとしているであろう受験生の年代の10代と20代前半で見てみると、「日清シスコごろっとグラノーラ」「大塚製薬ソイジョイ」「アサヒバランスアップクリーム玄米ブラン」「グリコおからだから」とグラノーラ以外は片手でパッと食べられる栄養補助食品が上位に並んでいます。

朝食に栄養補助食品を摂る方が多いのでしょうか?

では、サイコグラフィックで見てみましょう。

どんな人が購入してる?

■サイコグラフィック分析_カロリーメイト 好感あり・個人価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:サイコグラフィック分析_カロリーメイト 好感あり/個人価値観

■サイコグラフィック分析_カロリーメイト 好感あり・社会価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:サイコグラフィック分析_カロリーメイト 好感あり/社会価値観

■サイコグラフィック分析_カロリーメイト 好感あり・消費価値観(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:サイコグラフィック分析_カロリーメイト 好感あり/消費価値観

サイコグラフィックを見てみると、個人価値観は“倹約家””自己愛強め””報われ待ち”な方が多いです。

社会価値観は“ワーカホリック””自分より家族優先”“マインドフリー”と、正反対のクラスターが並んでいます。

さまざまな職業や環境の方に利用されているのでしょうか。

先程競合分析で「ノ・ミカタ」がランクインしていたのも、さまざまな人が購入しているからかもしれません。

消費価値観は品質・安全性を重視する“失敗回避型消費”、懐かしいものを好む“ノスタルジー消費”に次ぎ、社会的問題にも目を向けている“エシカル消費”が高いです。

購入者の消費行動に繋がる理由は?

サイコグラフィックで見えてきた価値観とカロリーメイト、大塚製薬が取り組んでいる内容で照らし合わせてみました。

  • 失敗回避型消費=品質へのこだわり

「カロリーメイト」は工場での徹底した品質の安全管理だけでなく、どう飲んでも、どこから食べても、同じカロリー、同じ栄養、同じ味になるよう作られていています。

ノスタルジー消費=発売以来ほとんど変わらないパッケージデザイン
発売以来ほとんど変わらない、大胆なイエローの箱と余すことなく書かれた文字群のパッケージは、2014年にはグッドデザイン・ロングライフデザイン賞も獲得しているそうです。

  • エシカル消費=SDGsへの取り組み

大塚製薬は「カロリーメイト」に限らず、企業として多岐に渡りSDGsへの取り組みを行っています。

医療関連事業で培われたノウハウを活かし、ポカリスエットやカロリーメイトなど、健康の維持と増進のための独創的な製品の研究開発もそのひとつです。

「カロリーメイト ゼリータイプ」においては従来製品よりプラスチック包装(ピロー包装フィルム)樹脂を極力薄くすることで減量化に取り組むなど、環境に配慮した製品容器の開発に取り組んでいるそうです。

またコロナ禍での健康意識の高まりや、日々の忙しさの中での栄養補給ニーズに対し、現代社会に寄り添った“忙しい朝を全肯定”した広告も特徴的でした。

ここは前述の競合分析結果にも出ていますよね。

40年間の歴史の中での上記取り組みが、購入者の消費行動に繋がっているのでしょう。

プリキュアシリーズ

一方、東映アニメーションが制作する「プリキュアシリーズ」は2004年からテレビ朝日系列の日曜8時台後半に放送されている女児向けテレビアニメシリーズです。

■ポジショニング分析MAP_アニメ(キッズ) 好感度×認知度(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:認知・好感・満足度ポジショニング分析MAP_アニメ(キッズ) 好感度×認知度

アニメ(キッズ)の満足率x認知率を調べると、「プリキュアシリーズ」は認知率80%近くに位置しており、認知度は比較的高いです。

視聴者分析

■エンタメデータ_プリキュアシリーズ 認知率・好感率(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:エンタメデータ_プリキュアシリーズ 認知率/好感率

■デモグラフィック分析_プリキュア 現在利用者(視聴)(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:デモグラフィック分析_プリキュア 現在利用者(視聴)

プリキュア視聴者のデモグラ構成比をみるとカロリーメイトと似通っており、20代後半~50代前半が多く、特に30代後半の割合が高く出ています。

男女比では女性がやや多いです。

どんな人が視聴してる?

■サイコグラフィック分析_プリキュアシリーズ 好感あり・個人価値観
(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:サイコグラフィック分析_プリキュアシリーズ 好感あり/個人価値観

■サイコグラフィック分析_プリキュアシリーズ 好感あり・社会価値観
(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:サイコグラフィック分析_プリキュアシリーズ 好感あり/社会価値観

■サイコグラフィック分析_プリキュアシリーズ 好感あり・消費価値観
(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:サイコグラフィック分析_プリキュアシリーズ 好感あり/消費価値観

サイコグラフィックを見てみると、“報われ待ち””ジェンダーニュートラル”“自己愛強め”な方が多いです。

また社会価値観は“依存集中型””おりこうさん””出世優先”な方が多いです。真面目で寂しがりやな人が多いのでしょうか?

そして消費価値観は“ネタ消費”“ブランド消費”が高いです。

個人価値観の”報われ待ち”と”自己愛強め”以外は「カロリーメイト」と相互性がないようです。

では何故今回「カロリーメイト」のCMにプリキュアの楽曲が選ばれたのか、深掘りしていきたいと思います。

どうして受験生にカロリーメイト?

そもそも、何故カロリーメイトは受験生を応援しているのでしょうか?

どんな時にバランス栄養食品を食べるのか?

マイボイスコム株式会社「バランス栄養食品の利用」に関するインターネット調査によると、バランス栄養食品の利用目的は、「空腹感の解消」「お菓子のかわり」が直近1年間利用者の各3割強、「朝食のかわり」が20.0%、「昼食のかわり」が19.2%となっています。

受験生の頑張る力をサポート

“忙しい人”“時間がない時に”と他社のバランス栄養食品も​​流通し始めたことにより、カロリーメイトは業界シェア率が低下し、2012年まで売り上げが下がっていたそうです。

そこでカロリーメイトは、今まで狙ってきた人やシーンを、大きく変えました。

「仕事や勉強で、集中しているときを途切らせたくない」という消費者のインサイトをとらえ、ターゲットを“考える人”に当てることで、「仕事や勉強で、集中を途切らせたくないとき」に、栄養と適度な腹持ちで「集中しつづけるために」食べてもらおう、と2012年から受験生の応援を始めました。

食べている時間がないからと食事を抜いたり、栄養が偏った食事で簡単に済ませたりしていると、健康を損なうだけでなく、「受験」などの大切な本番に実力を発揮できません。

また考える時には、糖質が必要だと言われていますが、糖質を効率よく利用するためには、補助的な栄養もバランス良くとることが大事です。

「カロリーメイト」は糖質+必要な栄養素が凝縮されており、ランナップもブロック、ゼリー、リキッドタイプと様々なシーンで選べるアイテムが揃っており、時間がなかったり緊張で食欲がなかったりなど、受験生のさまざまなニーズに応えることができます。

歴代の受験生応援CM

2012年に受験生応援CMの第1弾を制作して以来、「カロリーメイト」は、毎年受験に挑む学生たちの様子とその日々に寄り添うブランドとしてカロリーメイトを描いています。

多くの人が共通体験として持っている「受験」を描くことで、現代の若者だけでなく大人からも共感を得られるのではないかと考え、制作がスタートしたそうです。

毎年、「その年にしか描けない受験に挑む学生たちの様子」を等身大で描いており、2021年はコロナ禍という“非日常が日常”になった高校生、2022年は従来のイメージとは異なる、リアルな高校生の受験勉強スタイルをスマホ視点から描いています。

その中でも2016年版の「夢の背中篇」は浪人が決まった瞬間から入試当日までの1年間、受験勉強に奮闘する息子の様子を母親目線で描いた内容で、今でも“泣ける”とXなどで話題になっています。

私自身も浪人経験があるので、今このCMを見ても込み上げてくるものがあります。

参考:「ドボドボに泣いた」「無理です号泣です」 カロリーメイトの「受験生応援CM」2016年版が泣ける → 大塚製薬にCMの意図を聞いた / Buzz Feed
https://www.buzzfeed.com/jp/hayatoikeya/calorie-mate-cm

2023年版は何故10年前の”プリキュア”?

“受験生”にとっての懐メロ

10作目となる2023年版のテーマは『光と影』。

大学進学率の上昇や推薦入試・AO入試などの割合の増加や選ぶ大学や受験方法などの多様化を“美大受験生”にフォーカスし、描いています。

美大受験生と理系学部を目指す同級生が互いに切磋琢磨し合い、励まし合いながら「光」を求めて進む物語になっています。

そしてCM楽曲に選ばれたのが「スマイルプリキュア!」。

2012~2013年に放送された「プリキュア」シリーズ9作目で、今年大学受験を控える高校生は7歳頃、高校受験を控える中学生は4歳頃と、受験生たちが幼少期に流れていた耳馴染みのある曲として起用されたそうです。

“プリキュア”の持つ”多様性”

上記でも受験の多様化について触れましたが、近年は「多様性」が学校教育の中でも浸透しています。

プリキュア自体、男の子や宇宙人、成人のプリキュア、そして大人向けのプリキュアなども作品も始動していたりなど”多様性”に富んだ作品になっていますが、実はプリキュアは初代から先進的なものでした。

参考:男女に差なんて、ない プリキュア生みの親、秘めた信念 / 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL2W65XCL2WUTIL04V.html

初代プリキュアこと「ふたりはプリキュア」のプロデューサーは「金田一少年の事件簿」や「キン肉マンⅡ世」などを手がけた鷲尾天さん、監督には「ドラゴンボールZ」を手がけていた西尾大介さんで、戦っているのは女の子であるものの戦闘シーンがかっこいいのが特徴なのです!

今までの“戦う女の子”のアニメとは違い、武器や道具を一切使わないところも衝撃でした。また同じクラスでも性格や趣味が正反対で関わりがあまりない子同士が友情を育んでいく過程も面白いです。

プリキュアのスタートは“女の子がりりしく、自分たちの足で地に立つということ”がテーマでしたが、時代とシリーズが進むとともに、女の子・男の子限らず視聴者の子どもたちに、友情や助け合いを通じて自分の力で自立することの大切さを感じてもらえる作品をコンセプトに制作を行っているそうです。

参考:『プリキュア』は打ち切りの可能性もあった!? 初代プロデューサー鷲尾天が語る、20年間続いた礎となったのは最初の企画書に書かれていた「自分の足で凛々しく立つ」こと《プリキュアシリーズ20周年》 / 集英社オンライン
https://shueisha.online/articles/-/124924

■イメージ分析_プリキュアシリーズ(Knowns 消費者リサーチ調べ)

Knowns 消費者リサーチ調べ:イメージ分析_プリキュアシリーズ

プリキュアシリーズのイメージでは、「心温まる」「前向きな気持ちになる」が上位に来ており、大塚製薬がカロリーメイトを通して受験生に伝えたい”応援の気持ち”に合っていると思いました。

また他のアニメ(キッズ)のイメージ平均(赤丸)に比べ、「かっこいい」「心に響く」も上位に来ているのが、プリキュアシリーズの特徴です。

まとめ

「カロリーメイト」購入者の特徴

  • 20代後半~50代前半、女性に人気
  • 倹約家・自己愛強め・報われ待ち
  • さまざまな職業や環境の方に選ばれる
  • 失敗回避型消費・ノスタルジー消費・エシカル消費の傾向が強い

 「プリキュアシリーズ」に好感を持つ人の特徴

  • ​​20代後半~50代前半、やや女性に人気
  • 報われ待ち・ジェンダーニュートラル・自己愛強め
  • 真面目で寂しがりやな人が多い
  • ネタ消費・ブランド消費の傾向

今回のプリキュア楽曲起用には、今年の受験生が幼少期に聞いていた直撃世代であることの他、大塚製薬が受験生に伝えたいメッセージやイメージにもプリキュアが合っていたことがわかりました。

次の「受験生応援CM」はどのようなものになるのか…今後も楽しみですね!

消費者リサーチ