ファッション好きの心を掴む実力派ブランドとは?意外な購入層を発見


トムブラウンというブランドを知っていますか?

ファッション業界をざわつかせる実力派のブランドです!(芸人さんじゃないですよ笑 )

最近、ドラマ「不適切にもほどがある!」で吉田羊さんがめがねを着用されてました!


参考:金曜ドラマ 不適切にもほどがある! 相関図 / TBSテレビ

そんなトムブラウン、先日2024AWコレクションが発表されました。

トムブラウンの”洋服”を知っている方も、ランウェイがこんなにアヴァンギャルド(前衛的)だとは知らなかった方も多いのではないでしょうか。

このランウェイは、個人的には映画の「ウェンズデー(Netflix’s)」や、「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」、「コープスブライド」などティムバートンの雰囲気を終始感じるコレクションでした。

デザイン性の高さと「それが売れるかどうか」は全く別物で、”やりたいことと売れるモノづくり”のギャップはファッションデザイナーがよくぶち当たる壁と言われます。

参考:メンズ 秋1 2024 LOOKBOOK コレクション / Thom Browne 公式オンラインストア

上記の画像は、実際に店頭に並ぶものです。

ランウェイとはかなり違う印象を受けると思います。

今日は、クレイジーなクリエイティビティと高いビジネスセンスを持つトムブラウンについて分析していきたいと思います。

トムブラウンの歩み


1965年 デザイナーのThom Browne(トム・ブラウン)がアメリカで生誕
    ノートルダム大学で経営学を学び、俳優を目指しLAへ。
1997年 NYへ移住 
    Giorgio Armani(ジョルジオ・アルマーニ)のショップスタッフとして
    働き始める。
    その後、いくつかのブランドを経ていくうちに才能を見出され、
    デザイナーとしてのキャリアがスタート。
2001年 トムブラウンニューヨーク(THOM BROWNE NEW YORK)設立
2004年 NYコレクションデビュー(メンズプレタポルテ)
2010年 パリコレデビュー(メンズ)
    ウィメンズコレクションはNYで発表

THOM BROWNE トム ブラウン / ファッションプレス

このあたりから数々の賞を総なめにし、ファッション業界にトムブラウン旋風を巻き起こしました。


2006年にはCFDA(米国デザイナーズ協会)メンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー、そして2008年にもGQmagazine のデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、WGSN(Worth Global Style Networks) の最も影響力あるデザイナーにも選ばれている。ナショナル・デザイン・アワードでも、2006年、2009年、そして2010年のファイナリストに選出されていたが、今回が初の受賞となった。

トム・ブラウンがナショナル・デザイン・アワード受賞 / ファッションプレス

デザイナーとしての才能は高く評価されており、ブルックスブラザーズやハリーウィンストンのメンズジュエリーライン、モンクレール等のコレクションを任せられた経歴もあります。


既に世界にその名を轟かせるブランドとしての地位を確立していながら、まだまだ新しく成長の可能性を秘めているそんなブランド、トムブラウンの愛好家はどんな人たちなのでしょうか?

分析をみていきます。

トムブラウンの顧客の特徴


■ブランドデータ_トムブラウン 認知率/好感率(Knowns 消費者リサーチ調べ)



■7 JourneyTable_トムブラウン(Knowns 消費者リサーチ調べ)



認知率21.0%と、未認知がまだまだ多いですが、顧客の男女比はほぼ5:5。

現在購買者の年齢層のグラフを見ると、積極的ロイヤル(現在購入していて次回も高い購入意向があるユーザー群)では20代が47.5%と約半数を占めています。

消極的ロイヤル(現在購入していて次回は低い購入意向があるユーザー群)は30~40代がそれぞれ10%前後で合わせて43.8%を占めています。

■デモグラフィック分析_トムブラウン(Knowns 消費者リサーチ調べ)



※絞り込み条件:現在購買者/子供の有無

■7 JourneyTable__トムブラウン 子供の有無(Knowns 消費者リサーチ調べ)



子供の有無を見てみると、現在購買者にとって子供の有無はあまり関係ないようです。

セグメント別にしてもロイヤル層(積極的・消極的)は同じ割合で差はありませんでした。

ただし、離反層(離反予備軍・巻き戻し・離反)は子供がいる人のほうが多い傾向にあります。

商品価格が比較的高額なブランドの為、20代や子供がいない世帯の方が自分のために使えるお金がある可能性もあり、積極的に利用しやすいのかもしれません。

チャンス(購入したことはないが、購入してみたいと思っているユーザー群)では”子供はいない”が64.2%と高くなっていますが、「買いたいけど値段が高くて躊躇している」や、「着ていく場所がない」などの理由で購入に至っていないチャンスユーザーが潜在しているのかな、、と予想できます。

■7 JourneyTable_トムブラウン 世帯年収(Knowns 消費者リサーチ調べ)



もう少し掘り下げて世帯年収を見てみると、400~600万円という日本の平均世帯年収(約545万円)相当の層が積極的ロイヤルでのボリュームゾーンとなっています。

また、1200~2000万円という高所得世帯の割合も”全体と比較すると+5pt以上”を示すピンクのマーカーがされています。

参考:プリンス・オブ・ウェールズ ヘビーウェイト スーツ生地 クラシック スポーツコート / Thom Browne 公式オンラインストア

ジャケットが50万円を超えるようなブランドなので、収入の多い層がヘビーユーザーとして一定数いるなかで、消極的ロイヤル層では200~400万円が30%超と大きな割合を占めています。

■7 JourneyTable_トムブラウン 個人年収(Knowns 消費者リサーチ調べ)



個人年収グラフでは積極的ロイヤルの1000万円以上が不在となり、200万円未満が50%を超える結果になっています。

消極的ロイヤルについては、世帯年収200~400万円は31.9%、個人年収では38.3%と6.4%個人年収の方がパーセンテージが上がるものの近い数値です。

また、400~800万円の消極的ロイヤル層は世帯年収が31.5%、個人年収が28.2%と3.3%の差はあれど、こちらもほぼ変わらず。

■7 JourneyTable_トムブラウン 職業(Knowns 消費者リサーチ調べ)



職業を見ると、会社員とともに存在感を示しているのが学生。
(個人年収のグラフで200万円未満が50%超となったのは、この”学生”の影響がおおきいかもしれませんね)

服飾学生や美容学生などファッションに興味の強い学生が多く購入しているのかもしれません。

洋服はかなり高額ですが、T-シャツは5万円前後から、人気のアイウェアも10万円程度からあるので絶対に手が届かないわけでもないというか、、それでも2度見する程には高いですけどね、、笑

トムブラウンのブランドイメージ

■イメージ分析_トムブラウン 現在購買層(Knowns 消費者リサーチ調べ)


イメージ分析では、”上品・優雅”、”個性的・他にない”、”期待感・ワクワク”などデザイン性の高さやハイブランドに対するイメージが上位に並んでいます。

また、”ノスタルジー・懐かしさ”と”トレンディー・憧れ”が共存しているのが面白いなと思いました。

トレンドを抑えつつ、1970年代後半から流行したプレッピースタイルを取り入れたデザインが、このようなイメージ分析結果につながっています。

購入者の好みや傾向が見えてくる?

■イメージポジショニング分析MAP・ 競合分析(特徴差順)_トムブラウン
(Knowns 消費者リサーチ調べ)


イメージ分析で特徴的な項目だった”個性的・他にない“を縦軸に、”ノスタルジー・懐かしさ“を横軸に設定したハイブランド・ラグジュアリージャンルのポジショニングマップを作成しました。

トムブラウンを過去に購入していた人が現在購入しているブランド、トムブラウンを現在購入している人が次回購入したいと回答したブランドに挙がっているブランドにポジショニングマップで印をつけてみると、トムブラウンよりノスタルジックな印象があるのはセルジオロッシ、バーバリー、ダンヒルとどれもクラシックで歴史のあるブランドでした。

参考:Sergio Rossi:イタリア製ラグジュアリーシューズ
参考:バーバリー | 公式サイト&ストア
参考:ダンヒル メンズウェア&レザーアクセサリー Dunhill

このように、セルジオロッシ、バーバリー、ダンヒルはどれもタイムレスな印象を受けるデザインで伝統的なスタイルを貫いています。それにより、”ノスタルジー・懐かしさ”といったイメージが強いと分析できます。
CHANEL、PRADA、フェラガモなどはノスタルジーという物差しでは逆の位置にいますが、知名度が高くバッグやベルトなどアクセサリーもとても人気のブランドなのでトムブラウンの顧客(=ファッションにお金をかける)も多く利用していると考えられます。

■サイコグラフィック分析_トムブラウン(Knowns 消費者リサーチ調べ)


※絞り込み条件:好感あり/個人価値観・消費価値観
トムブラウンに好感のある層のサイコグラフィック分析においても、ステータス消費やブランド消費の項目が高くなっており、ファッションにお金をかけていると言えそうです。

また、個人価値観では自己愛強め、チャレンジャーなどの特徴がみられるように、個性のあるファッションで着飾ることにあまり抵抗がない傾向もありそうです。

モノ重視、都会派ということでおしゃれな服をたくさん持っていそうですよね!ワードローブが華やかそうな印象を受けます。

ちなみに対象を学生に絞ると全体的に数値が上がっており、上記のような傾向はさらに顕著にあらわれています。(下記画像)

■サイコグラフィック分析_トムブラウン(Knowns 消費者リサーチ調べ)


※好感あり/学生/個人価値観・消費価値観

■相関ランキング_トムブラウン 現在購買層(Knowns 消費者リサーチ調べ)



上記でトムブラウンの顧客(=ファッションにお金をかける)と述べたのですが、
相関性のあるジャンルランキングにおいてもデザイナーズブランドやスキンケア、メイクアップも高価格、アパレル通販サイト、セレクトショップ、靴などが上位を占めており、ファッション好き&いいものを身に着ける価値観があるようです。

スキンケアやメイクのジャンルが3項目、香水・フレグランス、紫外線対策商品など美容系の項目が10位以内に多く入っていることから、美意識の高い方が多いという印象も受けます。

■ワードクラウド_トムブラウン(Knowns 消費者リサーチ調べ)



ワードクラウド(ブランドについての具体的な意見やコメントの頻出ワードを可視化した図)を見ると、
「おしゃれ」「大人」「シンプル」「かっこいい」などの単語が目立ち、スーツのかっちりした雰囲気のイメージにつながります。

女性よりは男性向けのブランドと認識されている印象も受けます。

また「プレゼント」というワードも出ているように、贈答用として利用する人も一定数いそうです。

「芸人」という単語もひょっこり下の方にあり、そう思うよね。とくすっと笑ってしまいました。笑

え!?トリコロール意識してない?笑
と、芸人さんのトムブラウンの話はこの辺にして、、笑

ブランドの魅力が伝わるSNS発信

■SNS利用状況_トムブラウン 現在購買層(Knowns 消費者リサーチ調べ)



トムブラウンはSNS発信も魅力的です。

トムブラウン現在購買者のSNS利用状況を見てみると約90%の人がSNSを利用していると回答しています。

その中でも最も閲覧しているSNSとしてYouTube、Instagram、Twitter(現X)が近い数値を示しています。

各SNSで”Thom browne”と検索すると下記のような結果が出てきました。

参考:Thom Browne @thombrowne/ Instagram
https://www.instagram.com/thombrowne/

YouTube

どれも検索して上位に出てきた投稿をキャプチャしたものですが、Xでは秋のコレクション関連や投稿、Instagramでは著名人のトムブラウン着用写真、または雑誌などのビジュアル写真、YouTubeではコレクションのフルビデオがヒットしています。

Xはニュースの速報性、Instagramは画像がメインの投稿、YouTubeは長い動画と、投稿主も見る側も投稿内容によって相性の良いSNSを使い分けているということが分かりますよね。

知名度は決して高くないトムブラウンですが、世界のトップブランドに上り詰めるほど人気があるのはすごいですよね!
なにがそんなにファンを引き付けるのか?

トムブランというブランドのアイデンティティについても触れておきたいと思います。
(おもしろいデザイナーズブランドについて執筆していると、元ファッションライターの血が騒ぐ!笑)

トムブラウンのアイデンティティ

冒頭で、デザイナーはやりたいことと売れる服のギャップに苦しむことがあるというお話をしたのですが、毎シーズン「ブランドらしさと新しさ」両方を求められることにも苦しむデザイナーが多くいると思います。

ファッション業界(とくにファッションショー)ではどうしても新しいもの、斬新なもの、インパクトを大好物とするメディアやファッショニスタたちの声が大きな業界なので、それを追いすぎてブランドの軸がぶれてしまったり、ブランドらしさを守りすぎて毎シーズン似たようなコレクションだと酷評されたりすることがあるのです。

トムブラウンには、創造力が長けていながら「ここは譲れない」というブレない芯があります。

①グレーのセットアップ

デザイナーのトム自身、ほぼ毎日グレースーツを着ています。

参考:【インタビュー】トム・ブラウンが語るストア構想とブランド / FASHIONSNAP [ファッションスナップ]

「私は、物事をシンプルにしておきたい。スーツは20着くらいをワードローブの右端から順に着ていって、左端までいったらまた最初に戻る。これで朝起きてから、何を着るかについて悩む必要がありません。グレーのスーツとは、私にとって決して退屈することのないユニフォームなのです」

トム・ブラウンがグレースーツにこだわる理由 / GQ JAPAN

「グレーって500色あんねん」
なんてセリフがアンミカを憑依させたトムブラウンから聞こえてきそう。笑
私も無類のグレー好きではありますが、グレーってシンプルで洗練されていて、クラシックだけど少し抜け感もあって決まりすぎない。絶妙な力加減の色だと思っています。

②トリコロールライン

トリコロールカラーと言えばフランス。というイメージを持つ方が大半だと思いますが、トムブラウンのトリコロールは実はアメリカの国旗に使われている青赤白です。
オーソドックスなグレースーツのアクセントにトリコロールを使うとスポーティな印象がプラスされます。
スポーティな要素としては、4本線もアイコニックなデザインとして多く取り入れられています。
(これについては去年アディダスとちょっとバチバチやっていたので気になる方は調べてみてください笑)

参考:メンズ/メンズ ジャケット & スーツ/75 プロダクト /  Thom Browne 公式オンラインストア

③あえての「ツンツルテン」プレッピースタイル
ジャケットは腰丈、袖丈もパンツ丈も短め。(もしくはハーフパンツ)というのがトムブラウン的黄金比。
袖や裾からのぞくシャツや靴下でもコーディネートを遊ぶことができる”おしゃれさん的”感覚を爆発させています。
(だって人によってはえ?サイズ感ダイジョブソ?っておもわれてしまいますもんね。普段から”おしゃれさん”とか”個性派”とポジショニングされているような人でなければ着こなせない説)

参考:メンズ/Mens Shorts/42 プロダクト / Thom Browne 公式オンラインストア

一見驚くようなバランスかもしれませんが、適当に短くしているわけではなく、計算しつくされたハイクオリティなテーラリングで成り立っています。
アイビールックやプレッピースタイルは立ち上げからずっと変わらないトムブラウンの神髄です。

④ショーはドラマティックなもの

「ショーは概念的でなければならないと思うからなんだ。ショーは物語を伝えるべきであり、もっと興味深い不自然なものを作り出すべきだと思っているから」。

2017年12月に閉店を迎えるコレットの地下にあるウォーターバーに座って、私たちVOGUEにやわらかい語り口で話し始めた。

コレットで彼は10月31日までポップアップストアを展開中だ。

「僕のデザインには、強くてクラシックな部分も存在する。それはショールームで見ることができるから、あえてショーで見せる必要はないんだ」

トム・ブラウンが告白。奇抜な演出の裏側にある服づくりへの情熱。 / VOGUE JAPAN
トムがここでいう”クラシックな部分”というのは、伝統的なプレッピースタイルの”普段着られる服づくり”の部分でしょう。

それはショールームで見せることができるので、ファッションショーはもっとインパクトのあるものにしたい。という思いがあるようです。

参考:THOM BROWNE 2024年秋冬コレクション / FASHIONSNAP [ファッションスナップ]

私はファッションライターをしていた過去がありますが、ショーはエンターテインメントとして世界観やストーリーを全面的に出したファッションショーをするブランドの方が見ていてとても面白かったし興味をそそられ、後日ショールームに足を運んで見たい!という気持ちになったことをよく覚えています。

トムブラウンのクリエイティビティとビジネス感覚のバランス観というのはこういうところに現れているのだろうなと思います。

まとめ

数々の賞を獲得し、今やファッション業界の中核を担っているといっても過言ではないトムブラウン。
その特徴をまとめておきましょう。

・認知率は21%と低いがインスタのフォロワーは167.6万人(2/27現在)おり、ファンはついている。
・積極的ロイヤルは20代がメイン
・ブランド自体は知っているが買う機会がない「チャンス」層が多い
・”上品・優雅”、”期待感・ワクワク”、などハイブランド特有のイメージに加え”ノスタルジー・懐かしさ”と”トレンディー・憧れ”の共存が特徴的
・トムブラウンの顧客は美意識が高い(着飾ることが好き)

ファッション業界にいる人(特にコレクションを見に行くような仕事をしている人たち)と、そうでない人たち(スーツを着て働くような所謂”ビジネスマン”や”ビジネスウーマン”など)では、”おしゃれをする”という概念のギャップがかなりあると思います。

もともとファッション業界にいた身としては、トムブラウンの服(コレクションピースではなく売っている服の方)は”奇抜”とは思いません。

でも、いくらジャケットとパンツでも「会社に着ていける服」とも「みんなが普段着にできる服」とも思いません。

今回の分析では、トムブラウンの実績に対し認知率が低いような印象を持たれた方も少なくないと思います。

けれどトムブラウンは、ユニクロのようにマスを狙うブランドではないし、認知率をあげることはそんなに重要ではないのかなと私は思いました。

どこかでどんどん店舗を増やしたいとトム自身が語っていましたが、それは認知率を上げるためでなく、世界中に溢れているおしゃれアンテナを張り巡らせてたファッションホリックたちに届くように。

その人たちをトムブラウンのエンターテインメントで楽しませたい。
そんな思いが込められているのではないでしょうか。